長いキャリア人生の中で逆境やピンチはつきもの。ただ、苦しい状況に押しつぶされることなく、それをチャンスととらえ、見事に挽回した女性たちがいます。そんな女性たちに、どのように自分を鼓舞し、モチベーションに変えて、行動に移すのか、具体的に教えてもらいました。

近年、盛り上がりを見せている「レトロブーム」。中でも石塚硝子(愛知県岩倉市)の「アデリアレトロ」は、かつて昭和の家庭で親しまれていたグラスウエアをリメイクした人気シリーズだ。

このレトロブームに目を付け「アデリアレトロ」を誕生させたのは、現在は独立しデザイナーとして活躍する桐本夏希さんら三人の女性たち。しかし、当初はこの商品の開発に社内からは反対の声が上がった。200年以上続く老舗ガラスメーカーで社内の反対を押し切り、新しい取り組みに挑戦した道のりや、大ヒットアイテムが生まれるまでの背景、思いついたアイデアを形にする方法などを桐本さんに聞いた。

レトロブームの到来を察知し生まれた「アデリアレトロ」

 モノが売れない時代でもある今、「10万個売れればヒット」と言われるガラス製品のなかで、100万個以上販売と、異例の売り上げを達成している商品がある。それが、2018年に発売した「アデリアレトロ」だ。

 販売元の石塚硝子は、1819年創業の老舗ガラスメーカー。同社の「アデリアシリーズ」は、1961年から続くロングセラーの食器ブランドだ。「アデリアレトロ」は、その中で1960~70年代に販売していたプリントグラスの復刻版。

 花などをモチーフにしたレトロな美しい柄が目を引く商品に携わったのは、2人のデザイナーと営業担当者という、20代の女性社員三人。その1人が、現在は独立している桐本夏希さんだ。

桐本夏希さん(28歳)
桐本夏希さん(28歳)
アデリアレトロ 開発メンバー

 「もう一人のデザイナーは抜群にセンスが良く、営業担当者は市場を見るマーケティングの力にたけていました。私はというと、デザイナーとしての役割もありましたが、どちらかというとプロデューサー的な立場というのでしょうか。『かわいい!』『こんな商品があったらいいと思わない?』と、思いついたアイデアを形にするための道筋を立てる役割でした。三人の個性や特徴が、とても良いバランスでしたね」

 当時、社内で「ニッチな購買層をターゲットにした商品開発プロジェクト」に在籍していた三人は、何を作ろうかと考えていたとき、インスタグラムを使い自社のブランドである「#アデリア」で検索してみることにした。

 するとそこに投稿された写真は、黄色やオレンジの花柄模様のグラス、クリームソーダを飲むときの足付きグラスや、薄茶色のグラス……と、ほとんどが60~70年代に石塚硝子から発売したものばかり。しかしそれらは既に生産をしておらず、容易に手に入れることは困難だった。

 そんな投稿写真を見ながら、桐本さんの脳裏に浮かんだのは、当時文具メーカーが発売していたレトロな雑貨の数々。桐本さんは、「レトロブームの到来を感じていた」と話す。

 「レトロブームも来ているし、需要もある。なにより以前発売されていたプリントグラスの柄がかわいらしくて、ぜひとも復刻させたいと思いました。そこで『当時の柄をリメイクしたグラス商品(復刻版)』を作りたいと、企画会議に案を提出。けれど、一度目は見事に却下されました」

 その後、桐本さんらはどのように企画を通し、ヒット商品へとつなげていったのか。さらに、アデリアレトロ誕生までのストーリー、ヒットを生み出すアイデアの出し方を聞いた。