最近耳にする「STEM」とは、「科学、技術、工学、数学」の分野を基にした思考やスキルのこと。AI社会を生き抜くカギと目されます。STEM人材として活躍する女性たちから「STEM的思考法」のヒントを学びます。

今回は、スーパーSTEMな女性・原綾香さんを「因数分解」します。原さんの思考と行動を通して、第1章で説明した2番目の課題解決プロセス、「手順を見つけ実行」する力を付けるカギを学びます。

 課題発見は、STEM的思考の第一歩だ。だが当然、「発見」しただけでは解決に至らない。解決までの道筋を考え、ツールやテクノロジーなどの手段を使いながら実行する力が必要だ。

 原綾香さんは、マイクロソフトコーポレーション(以下マイクロソフト)のソフトウエアエンジニアとしてMachine Learning(機械学習)などのAIやクラウド技術を活⽤して、日々顧客に課題解決を提案している。一方、プライベートでは幼少時からバイオリンを学び続けており、音への興味から、音響や奏法の研究を英国に留学して追究した。

 原さんは、課題発見はもちろん、その課題を解決するため「プログラミング」という手段を使い、実行力を発揮している。この実行力の源泉にどのような思考があるのか、見ていこう。

マイクロソフトコーポレーション ソフトウエアエンジニアの原綾香さん
マイクロソフトコーポレーション ソフトウエアエンジニアの原綾香さん
原さんの「課題発見→手順・実行→解決・新たな課題発見」のプロセス。留学した英大学院で使った研究手法は、現在の仕事に生かされている
原さんの「課題発見→手順・実行→解決・新たな課題発見」のプロセス。留学した英大学院で使った研究手法は、現在の仕事に生かされている

バイオリンを習い続けたことで生まれた疑問

 原さんがバイオリンを習い始めたのは3歳のとき。お兄さんが習っていたことから、自分もレッスンに通い始め、コンクールやコンサートに向けて食事と学校以外の時間をほとんど練習に費やすこともあった。

 中学生のときには複数の先生に師事し、地元の愛知県豊田市から名古屋や東京までレッスンに通うほど本格的に取り組んだ。そしてバイオリンを演奏することから生まれた「なぜ?」が、その後の原さんのキャリアを決定づけることになる。それは「音や奏法」に関する疑問だ。

 「なぜこのビブラート(音を揺らす奏法)がいいのか、なぜこのコンサートホールでは音がこのように響くのかなど、いろいろ疑問を持ちました。でも周りに聞いても『そういうものだから』という回答しか得られなかったんです。そうした興味のあるものを勉強したいと思って、音楽や音響を取り扱っていると思われる津田塾大学の情報科学科に決めました」

大好きなバイオリン。音楽の道に入るか迷った時期もある(原さん提供)
大好きなバイオリン。音楽の道に入るか迷った時期もある(原さん提供)