最近耳にする「STEM」とは、「科学、技術、工学、数学」の分野を基にした思考やスキルのこと。AI社会を生き抜くカギと目されます。STEM人材として活躍する女性たちから「STEM的思考法」のヒントを学びます。

全5回で実践 視野が広がるSTEM思考法

「STEM思考法」特集の最終回を締めくくるのは、STEM分野の研究者として日米で長年活躍し、現在はジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケアカンパニーで社長を務める海老原育子さんです。STEM思考法を発揮する前提として、若手ビジネスパーソンがどのようなスキルを付けるといいのか、海老原さんに経営者の立場からお聞きしました。

海老原育子(えびはら いくこ)ジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケアカンパニー代表取締役プレジデント
1990年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。住友スリーエム(現スリーエムジャパン)に技術職として入社した後、99年米本社に転籍した。インターナショナルディレクターとして、感染予防部門で約60カ国にわたるグローバル戦略とその展開を担当。2003年、ミネソタ大学にてMBA取得。2013年ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社。最高執行役員を経て2016年、代表取締役プレジデントに就任

 海老原さんは、新卒入社した住友スリーエム(現スリーエムジャパン)で光学系システムやヘルスケア事業の開発などに従事した。就職先にメーカーを選んだのには「自分が研究開発に携わった製品が工場で作られるところを見たい」「その商品を消費者から評価されたい」という夢があった。

 日本と米国で研究実績を重ねている最中に、ビジネスの基本を学ぶ必要があると一念発起し、1997年から約6年かけて研究生活と米MBAスクールの二足のわらじを履いてMBAを習得した。そして転職を経て2016年に、社長というトップマネジメント職に就く。

 海老原さんがMBAを取ろうと決意したのは、現場のエンジニアたちと、よりビジネス寄りのマーケティング部門の人たちの間をつなぐ「通訳」になろうしたから。「神業」とまで思われる優秀な技術者たちのモノづくりの技術を市場のニーズに生かしていくマーケティングの重要性を、そのとき理解したという。

 経営者の多くは、数理的、科学的に物事を考えて課題解決に当たる「STEM思考法」を身に付けている。STEM分野で長年活躍してきた海老原さんには、経営者の目で、日経doors世代を含め、若手ビジネスパーソンに対して持ってもらいたいと思うスキルがある。

価値を生み出す二つの力がないと「もったいない」

 「会社にいるからには、仕事で自ら価値を生み出す必要があります。自分で何かに価値を見いだし、これには価値がある、と会社にきちんと説明できないと生き残れません。ことに米国の会社では『(私はこの職場で)何をしたらいいか分からない』なんて言ったら、瞬殺。その場でクビになってしまいます(苦笑)」

 そのためには「二つの力」が必須だと強調する海老原さん。論理を組み立てる「論理力」、それを周りに納得させる「表現力(コミュニケーション)」だ。

 海老原さんの見るところ、論理力を身に付けている若手社員は多い。一方、周りや上司を説得する表現力が未熟だという。表現力が不足しているというだけで価値を生み出せず、潜在力のある事業や製品を世に送り出せないのは「本人にとっても、世界にとってももったいない」。

昔と今の個人のスキルの違いを概念図で示した。昔はいわゆる理系と文系にいる人たちはそれぞれのレベルの論理力と表現力を使い仕事をしていたが、現在は異なる背景や経験を持つ人たちと仕事ができるよう、基盤となる一定の論理力と表現力が求められている(海老原さんの話を基に日経doorsが作成)