長いキャリア人生の中で自分が思い描いたようなプランを進めるためには時には自分にお金と時間をかけることが必要です。今回の特集では具体的な自己投資の方法のほか、実際に自分に投資をすることによってキャリアを開拓した女性たちを紹介します。

米国カリフォルニア州を拠点とするクラウド型ネットワークセキュリティーの大手、ゼットスケーラーの代表取締役として、日本・アジア事業全体の責任者を務める金田博之さんは、20代から自己投資を続けてきた人の一人。「将来のビジョンは必須ではありません。まずは目の前にある小さなことに着目して、効率よく自己投資をすれば、道が開けていく可能性が高いでしょう」と言う。金田さんの自己投資の秘訣を余すところなく語ってもらいました。

ゴールを小さく明確なものに絞り、目に見えるリターンを短期で得る

「自己投資は人生のなるべく早い段階で始めたほうがいいですね。自分に合った自己投資のスタイルを模索して確立していくことが、実は一番大事なのではないかと思います」(金田さん)
「自己投資は人生のなるべく早い段階で始めたほうがいいですね。自分に合った自己投資のスタイルを模索して確立していくことが、実は一番大事なのではないかと思います」(金田さん)

 「あなたはタイパ(タイム・パフォーマンス)のいい自己投資をしたいですか? この質問に対して『Yes』と思うなら、これから説明する自己投資の方法がお勧めです」

 そう話す金田博之さんの自己投資の秘訣は、「絞る」「繰り返す」「掛け算をする」の3ステップです。

 金田さんのキャリアは言ってみれば「自己投資の連続」。最初の自己投資は、大学卒業後、ERP(統合基幹業務システム)大手、SAPジャパンに入社した年に遡ります。入社直後に金田さんに任された仕事は、自社セミナーへの申し込み受付。同社は潜在顧客向けに自社製品の活用方法セミナーを多数実施していました。

 「1998年当時、インターネットはあまり普及していなかったため、申し込みはファクス経由でした。そして、僕の仕事は、ファクスで届いた申し込みデータをエクセルに打ち込んで整理するというものでした」

 金田さんがこうした地味で単調な仕事で1日を終える傍ら、営業担当だった同期の社員たちは社外に繰り出し、華々しく契約を成立させていました。「僕だけ置いてけぼりを食らっているように感じ、焦りもありました。でも、そこで発想を転換して、僕が何か工夫をすることで、周りの社員たちに喜んでもらえることはないだろうか、と考えたんです。すると、アイデアがひらめきました」

 金田さんの気づきは「セミナーへの申込者データは、見込み客のリストでもある」、ということでした。そこで、データベース管理ソフト「アクセス」の解説本を自腹で1冊購入。それを片手に、申込者データを整理しなおし、一覧性と検索性を改善させて全社員が簡単に見られるようにし、営業担当者が見込み客を探しやすくしました。さらに、過去のセミナーに参加した人のリストも整理し、営業成績の向上につなげました。その結果、社長賞を獲得するに至りました。

 「金額だけ見れば、たった1500円の自己投資で社長賞が取れたんです。営業で大きな契約を取ったわけでもない。地味なデータ整理を少し工夫しただけでした」

 1500円の自己投資で、1年足らずで成果を出した金田さん。「このとき、僕は自分の自己投資スタイルを獲得したんだと思います。自己投資のスタイルはさまざまあると思うのですが、僕の場合は、最小限の投資で最大のリターンを得るというやり方が合っていたのでしょう」。そして、「次は何をしようか」と、さらなる自己投資の種を探し始めました。

 その後も、データ整理の技術やビジネス英語をマスターするなど、「出費や労力は必要最小限に抑えながら、小さく明確なゴールに絞り、短い期間でクリアする」という自己投資を続けることで、グローバルなキャリアを築き上げた金田さん。そんな金田さんに効率的で、効果的な自己投資の方法を教えてもらいました。