近年、不妊治療経験を告白する著名人も増えてきた。身近に感じ始めた読者も多い。とはいえ、不妊治療をする6人に1人が離職するというデータもある。「もし自分が不妊治療をすることになったら、何が必要でどう変わるのか」。もしも子どもができなかったら…?という視点も含め、不妊治療とキャリアの両立のリアルを探る特集。

働きながらの不妊治療には、どんな壁があるのだろうか。28歳から約3年間不妊治療を続けながら、インターネットメディア運営会社のリブセンスで正社員として人事業務を担当する谷川さやかさんに話を聞いた。

婦人科に行ったのに、治療をすぐ始められない

 「私は幼稚園児の頃から、母親になるのが夢の一つでした。働きながら子育てしている母を見ていて、私もそうなりたいと思っていたんです」

 こう話す谷川さやかさん(31歳)は、26歳で結婚後、30歳で第1子、32歳で第2子を授かりたいといったライフプランを描いていた。結婚当初は転職したばかりだったため、3年は実績づくりに集中。28歳を迎えた頃、自分でできる範囲で妊活をスタートさせた。ところが、半年たっても妊娠の兆しはなく、不安が募るようになった。

 「このときは、まさか自分が不妊とは思わなかったし、妊娠しない事実を受け止めきれませんでした。何がストレスになっているのか、食べ物がよくないのか、仕事が忙し過ぎるのか、など原因を探して思い詰めてしまいました。当時は婦人科に行く習慣もなかったですし、問い合わせる勇気もありませんでした」

 その後、規則正しい生活をしたり食生活を改善したりと、自分なりに努力を続け、再び半年間妊活を続けたが、授かることはできなかった。もともとPMS(月経前症候群)や生理痛の症状が重かったこともあり、谷川さんは婦人科の受診を決意。夫の勧めもあり、不妊治療を視野に入れて病院を探した。「会社から通える場所にあり、実績のある病院」を条件に、口コミも参考にしながら病院を選択。しかし、すぐに不妊治療の開始とはならなかった

 「まず、婦人科系の検査を一通り受け、その結果、良性の子宮筋腫とチョコレート嚢(のう)胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)があると分かりました。私の場合は、それ自体が不妊の直接原因とはいえなかったのですが、やはり、何らかの影響があるとのことでした。さらに、風疹の予防接種をしていなかったことが最初の壁になってしまいました。妊娠中は風疹の予防接種を受けられないため、先に接種を済ませましたが、そこからまた半年間妊活を待たなければならず、焦りが募るばかりでした」

 「不妊かも……」と思ってから約1年後、谷川さんは夫と相談のすえ、本格的な不妊治療開始を決意。職場の理解やパートナーの協力など、仕事を続けながら谷川さんはどのように治療に取り組んでいるのだろうか?