社会に出て、母との関係に違和感を抱くようになった人は少なくない。一方で、自分の価値観が母の影響を受けているという人は8割以上も。専門家や経験者の声をもとに「doors世代のこれからの母との関係」を探っていく。

あなたは母との関係は良好ですか? 友達のように何でも話せる仲良し親子もいれば、昔から折り合いが悪い、はたまた、ある時を契機にギクシャク…という人もいるのではないでしょうか。内科医でタレントのおおたわ史絵さんは、著書『母を捨てるということ』の中で、幼少期から続いた母親との複雑な関係を語っています。また、恋愛・就活ライターのトイアンナさんもこれまでブログなどで母親との関係や自身の経験を発信してきた一人。正解のない「母親との距離」について、お二人に話してもらいました。

母親を「かわいそうな人」と思って生きてきた

日経doors編集部(以下、――) お二人とも、これまでメディアを通じてお母様との関係を語っています。しかし、今ではポピュラーになった「毒親」「毒母」という言葉を表現として一切使われていない。お二人の共通点だと感じました。

おおたわ史絵さん(以下、敬称略) 私の母は長年、オピオイドという処方薬の依存症を患っていました。このことは大きく私の人格形成にも影響を及ぼしましたし、いびつな家庭環境で育ってきたとも思います。「これは紛れもない虐待だ」とか「ひどい毒母だ」と捉える人もいるでしょうし、私自身も母親のことが大好きで良好な関係を築いてきたとはとても言えないのですが、それでも彼女を毒母と思ったことはないんです。それは、「他の比較対象がなかった」という一言に尽きます。

「母を毒親と思ったことは一度もないんですよね」
「母を毒親と思ったことは一度もないんですよね」

 私は小学校から電車通学をしていたので、近所の友達の家にお邪魔することも、よそのお母さんを見る機会もなかった。だから、自分にとっては彼女こそが「母親」という生き物だし、それを異常だとかおかしいとかレッテルを貼ったことがなかったんです。

トイアンナさん(以下、敬称略) 私の母は、自分を神だと思い込むようなスピリチュアル系に傾倒している人でした。診断を受けたわけではないのですが、統合失調型パーソナリティ障害と同じ症状だと感じています。

 そのため、私は幼少期から「魔女の娘」と呼ばれていじめられることがありましたし、幼心ながらに、うちは他の家とは違うんだなというのは感づいていましたね。一方、祖父が科学に精通していて、母とは真逆のスタンスだったため、私も「科学的なほうが正しいはず!」と母を否定してしまう時期がありました。

 親を否定して愛着形成ができないばかりに、私自身も自己愛性パーソナリティ障害を発症してしまったんです。他人の評価ばかり気にして自尊心を持てず、何度も自殺未遂を起こし、22~23歳で治療を受け始めました。

 でも……、私もおおたわ先生と同様、母を「毒母」とは思っていないんです。母は確実に私に愛情を注いでいたけど、その形状が異常すぎて私には受け取れないんだと気づいてから、距離が取れるようになりました。「毒母」というよりは「かわいそうな人」という認識です。

「私にとっては、『かわいそうな人』という認識です」
「私にとっては、『かわいそうな人』という認識です」

おおたわ 私も同じかもしれません。母はきっと生きづらかっただろうし、迷いながら答えを見つけられないまま一生を終えたのかな、と感じています。(編集部注:おおたわさんの母は6年前に亡くなっている)

―― おおたわさんは著書の中で、お母様に翻弄された日々のことをつづっていますが、当時、相談する相手はいたのでしょうか。