社会に出て、母との関係に違和感を抱くようになった人は少なくない。一方で、自分の価値観が母の影響を受けているという人は8割以上も。専門家や経験者の声をもとに「doors世代のこれからの母との関係」を探っていく。

身近な存在であるからこそ、確執が生まれてしまうこともある母娘関係。母からの反対で、就職や結婚など人生の大事な転機における決断を左右されてしまう人も。心理カウンセラーで母娘関係改善カウンセラーの横山真香(しんこ)さんに、母の支配や束縛から自由になる方法を聞いた。

親の影響を受けている人は約8割

 日経doors編集部が行ったアンケート(回答期間2020年11月13日~12月11日、回答人数104人)で、「母親の価値観や考え方など、影響を受けている(受けた)と感じることはありますか?」という問いに、「強く思う」「思う」と答えた人は約8割。「親の期待やプレッシャーを感じたことがある」という人は、「どちらかといえば、はい」と答えた人も含めて、66.3%いた。

 回答には、「大手企業を辞めて転職するとき、母が泣いて怒って抵抗した」「海外で働くチャンスがあり、行きたいと親に話すと、あんたなんか産まなければよかったと言われた」「親が決めた会社へ就職、結婚を決めても親の関係者だらけの式。何もかも親が顔を出してくる」「カレシを紹介するたびに否定される」「就職も結婚も、母が認めてくれるかどうかがまず考えにあった」など、人生の大きな転機に、母との衝突や影響力の大きさを経験したという声も。

 母親の希望をかなえてあげたい気持ちはあっても、それは自分が本当に望む道とは違う……そうした葛藤やストレスを抱える人はどのように対処し、よりよい関係を築いていけばいいのだろうか。

娘に期待をしてしまう母親たち

 延べ4000人以上のカウンセリング実績を持つ母娘関係改善カウンセラーの横山真香さんは、さまざまな母娘問題に共通する対処法を次のようにアドバイスする。

 「娘と母の人生の境界線が曖昧になっていることが多いんです。私がカウンセリングで話を伺ってきた母親の約6割は、精神的に孤独な環境にあります。つい『お母さんを助けなきゃ』『私だけはお母さんの味方だから』と、親の期待に応えようとしてしまう娘さんが多いのですが、娘の人生と母親の人生は本来違うもの。必要以上に感情移入して、母親をかわいそうと思うことはやめましょう。できること、できないことをしっかりと見極め、できないことは手放していくことが大切です

 長女は特に親からの期待が大きく、母娘問題に巻き込まれやすいという。

 「相談者の約7割は長女です。母親から長女への期待は大きく分けると2つあります。1つ目は、母親を助けてよき理解者となること、2つ目は『一番近い同性』としての期待。例えば、母にとって理想の性格であること、親が望む生き方をすること、自分が成し遂げられなかった夢を実現することが挙げられます。長女が第1子である場合は特に、過去の苦労や理想の姿を娘に重ねながら、力を入れて母親業をしてしまいがち。多くの母親は子どもに対して無自覚に期待の刷り込みを行い、娘も無意識に刷り込まれていきます」

 「第2子以降はそこまで期待をされない傾向があります。それぞれが幸せになってほしい、才能があるなら伸ばしてほしいという願望はありますが、人には実力や才能に限界があることを、長女の子育てを通して学びます。一方で、生まれた順番にかかわらず、優秀なきょうだいとの比較対象となり、母親からの期待の差に悩む人もいますし、一人っ子は、進学や就職、結婚のすべてにおいて母親の理想を一人に託されてしまうことも。これらのケースは、いずれも母親が娘の人生や成功を、自分のものと混同しています。子の幸せを願う親心ももちろんありますが、子育ての成功は母親にプレミアがつき、自己承認欲求が満たされるからです」

 「根底の部分で、親を変えるのはもちろん、自分自身を変えていくのは難しいこと。でも、『母との関係性をどう捉えるか』という捉え方を変えることで心の重荷はずいぶん軽くなりますよ」

 次のページから、母娘関係を改善するための考え方から具体的な対処法を紹介していく。