社会に出て、母との関係に違和感を抱くようになった人は少なくない。一方で、自分の価値観が母の影響を受けているという人は8割以上も。専門家や経験者の声をもとに「doors世代のこれからの母との関係」を探っていく。

姉妹で比較する母、感情的な母、性格が違いすぎる母…さまざまな母娘関係に悩んでいる20代・30代の女性3人による本音座談会。各家庭の悩みと背景、対人面での影響について赤裸々トークが繰り広げられた前編「相性が合わない母との関係本音座談会 心を軽くする方法」に続き、後編では、親の価値観が進路や恋愛、パートナー選びに与える影響について聞いた。

写真左下:中西須端化さん、右下:Aさん、上:Bさん、
写真左下:中西須端化さん、右下:Aさん、上:Bさん、

Aさん(31歳、コンサルティング会社勤務)
家族構成:父、母、1歳年上の姉
現在:独身、一人暮らし
悩み:母からの比較・否定がトラウマに
キャリア:20代後半で1度転職

教育熱心な母から優秀な姉と比較され、「なんでできないの?」と事あるごとに言われて育ったのがトラウマ。自分の意見を押し殺してきた期間が長く、判断や決断が苦手。恋愛や仕事などの人生の選択に対して、「親がどう思うか?」を基準に選んでしまう。

Bさん(26歳、IT企業勤務)
家族構成:父、母
現在:既婚、夫と二人暮らし
悩み:バリキャリ母との性格の不一致
キャリア:情報通信会社をへて今年11月に転職

ハングリー精神が旺盛なバリキャリ母に対し、マイペースな性格のBさん。趣味嗜好はもちろん、キャリアや家族に対する考え方が正反対なのに、母が自分の考えを娘に押し付けてくる。距離を置きたいが、今年10月に結婚した後も変わらない母に戸惑っている。

中西須端化さん(29歳、文筆家・PRライター)
家族構成:父、母、5歳年上の兄
現在:独身、一人暮らし
悩み:感情の起伏が大きい母との衝突
キャリア:NPO法人勤務をへて、新卒後3カ月でフリーランスに

腎臓に重い病気を抱えた兄、とある宗教に入信した母という複雑な家庭環境で育つ。母が感情的になる瞬間が分からずにおびえる思春期を過ごし、心身の不調も経験。芸大進学を志すも、母親の反対で立命館大学に進学した。言葉に救われ、文筆業をライフワークに。

親に与えられた選択肢の中からつかんだもの

日経doors編集部(以下、――) 中西さんは母娘問題で一番つらい時期に、小説「檸檬」の一節に感銘を受け、その後、導かれるように文筆家やライターの道に進みました。実体験が仕事につながっています。

中西須端化さん(以下、中西さん) 学生時代から、明確に「書くこと」を仕事にするのを目指していたわけではなかったのですが、子どもの頃から自分の考えを書くことが好きで、文章表現を通じて他者からの承認を得ることが多かったんです。それで、自然と書く機会が増えました。これが仕事になったらどんなに幸せだろうと思ってはいたけれど、母からは「そんなの仕事にはならない」と言われて反論できませんでした。

 新卒後はNPO法人で働きましたが3カ月で辞め、フリーランスに。そのときも親に強く反対されましたが、私にはその生き方しかできなかったというのが正直な感想です。キャリアや生き方を模索しながら、縁あって何とか仕事になっています。

―― 芸術大学への進学を希望していたところ、母親の強い意向もあり、最終的に立命館大学へ進学したそうですね。

中西さん そもそも高校にも行く意味がないと思っていました。母が「高卒資格がないと、将来就職が厳しい」と言うので、通信制の学校やフリースクールを自分で調べて交渉しました。でも、母は私に自分の想像の範囲にある「普通」の進路を選んでほしかった。よく分からないところには行かせないと母に反対されたので、高校に進学する代わりに卒業後は専門学校か芸大に行くという約束で高校に進学しました。大学は芸大に行くつもりでいたけれど、進路相談の時期になると親は認めてくれない。進学費用は親が出しますし、逆らいきれず結局、親も認めてくれる大学に受験をすることになりました。

―― 受験で故意に不合格になる、引きこもるなど、いろいろな反抗の仕方がありますが、そこまでいかなかったのはなぜですか?

<3人が分析する母親からの影響>■Aさん…転勤族家庭でワンオペ育児、孤立する母(60代前半)/<ネガティブ>・親が好みそうな進路選択を無意識・意識的、どちらのケースもあるが常にしてきた/・「相手を見て親がどう思うか」を基準で選んでいる。結婚をポジティブに捉えることができなくなった<ポジティブ>・教育にお金をかけてくれたため、多くの教養と経験が身に付いた/・学ぶ楽しさや知識を得ることの大切さが分かった。かけがえのない友人に恵まれた/■Bさん…たくましく人生を切り開いてきた働く母(50代後半)<ネガティブ>・母だけでなく両親の考えが一般的に正しいと思っていたので、特に中高生の頃、自分の本当に興味のあることは何か、心の声に耳を傾けず「両親に喜ばれそうな道」を選んだ/・婚活をしているとき、「自分は幸せな結婚生活を送れるのだろうか?」と不安があった<ポジティブ>・幼少期から働く母の姿を見てきたので、自分が将来働くイメージが自然と持てた/・母が人の職業に対して偏見を持っていたり、容姿をけなしていたりすることが多かったので、「自分は職業や容姿で人を判断しない」という信条ができた/■中西さん…持病を患うわが子との関係に悩み続ける母(60代後半)<ネガティブ>・自分の「好き」「嫌い」といった感覚がよく分からないまま大人になってしまった/・私には健全な家族を形成するのは無理かもしれないという不安<ポジティブ>・自分の頭でよく考えるようになった/・どん底を経験しているので、大抵のことは大丈夫/・人の話を注意深く聞き、気持ちを理解しようと寄り添えるようになった/※Aさん、Bさん、中西さんへの事前アンケート回答から抜粋