年末年始に読んでおきたい「お薦めの本」を紹介する特集。第7回は、独自の色彩感覚で世界中の少数民族を撮影するフォトグラファー、ヨシダナギさん。ヨシダさんが選んだ「人生を変えた1冊」とは?

ヨシダナギ
ヨシダナギ
1986年生まれ、フォトグラファー。独学で写真を学び、2009年より単身アフリカへ。以来、アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。唯一無二の色彩と直感的な生き方が評価され、2017年には日経ビジネス誌で「次代を創る100人」に選出。また同年には、「講談社出版文化賞 写真賞」を受賞。2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)では公式ロゴ審査委員に。2018年に『HEROES ヨシダナギBEST作品集』(ライツ社)を出版

「わあー!」という感嘆と、「あー」という悔しさ

 ヨシダナギさんの「人生を変えた1冊」は、2014年春に出合った、写真家ジミー・ネルソンが世界各地の少数民族の肖像を撮影した写真集、『BEFORE THEY PASS AWAY ―彼らがいなくなる前に―』。

 「『わあー!』という感嘆と、『あー』という悔しさが、初めて読んだときの感想です。海外好きの友人が『少数民族が好きなら、好きだと思うよ』と教えてくれて。まだ日本版が出版されていなかったので、サイズの大きい原本を海外から取り寄せました。長年自分がやりたいと思ってモヤモヤしていたことが具体的に表現されていました」

 ヨシダさんと少数民族の出会いは、5歳のときに遡ります。テレビのバラエティー番組でアフリカの少数民族、マサイ族の少年が日本の一般家庭を訪れるという企画を見たときのこと。「畳の上でマサイの少年が跳びはねる姿がかっこよくて、私も大きくなったらこうなるんだ! と思ったことを覚えています。黒い肌もファッションもすべてが美しくてかっこよかった。あの姿が、私の『ヒーロー』像になりました」

なんで自分だけこんなにつらいのか

 しかし、フォトグラファーにたどり着くまでは長い道のりが待っていました。小学4年生で東京都内から千葉県に引っ越した時から学校でいじめに遭うようになったヨシダさん。そして、14歳の夏に両親が離婚して父親に引き取られてからは、ずっと支えてくれた母とも別れてしまいます。「負のスパイラルに陥り、付き合う人にも恵まれず、なんで自分だけがこんなにつらい目に遭うのだろうと思っていました」

 中学校を不登校のまま卒業し、グラビアアイドルの仕事を経験。21歳になってフリーのイラストレーターの仕事をしていた頃、ふと、「この家から抜け出せばいいのではないか」と思い始めたそう。「一人暮らしをしたいなどと言えば、父から反対されることが目に見えていたのでこっそりお金をためました」

 そして念願かなって一人で新生活を始め、「生きることってこんなに楽しいんだ。何でもない日々が楽しくてたまらないということに気づいた」と言います。