エッセーを通して伝えたかったこと

岸田 コロナ禍で、誰もがあらためて「自分にとって大切なものは何か」や「環境に振り回されずに生きていくにはどうすればいいか」を考えた年だったのではないでしょうか。ネットを見る人も、どこかで楽しいものや気が晴れるもの、希望のある言葉を探していたように感じます。そうしたなかで、私の記事にたどり着いた方が多かったようです。なかでも、noteに投稿した高級ブラジャーを試着したときの話を書いた「1時間かけてブラジャーを試着したら、黄泉の国から戦士たちが戻ってきた」は約120万PV、母親に外車を買ってあげた話の「全財産を使って外車を買ったら、えらいことになった」の記事は、約80万PVを突破するほど多くの人に読んでいただきました。(ともに2021年1月時点)

 私がエッセーを通じて伝えたかったのは、「置かれた環境はなかなか大変でつらいことも多いけれど、そのなかには愉快な事、笑顔になる瞬間もたくさんあるよ」ということ。その思いに共感してもらい、親しみを感じてもらえたことがうれしかったですね。

―― 作家として独立する前は、会社員だったそうですね。どういうきっかけでエッセーを書くようになったのですか?

作文を褒められたことも賞を取ったこともなかった

岸田 昨年春まで、障がいを価値に変える「バリアバリュー」の社会を目指す「ミライロ」という会社の広報として10年間働いていました。体を壊して休職している時に、家族との日常を「note」につづった記事がバズって、今に至ります。小学生の頃からずっとチャットをやっていて、思っていることを言葉にするのは得意だったものの、学生時代に作文を評価されたことも、賞を取った経験もなかったので、人に文章を褒められたのは、noteの記事が初めてでした。

 ただ、私の文章が特に優れているとは思っていないんです。バズる書き方だったり、造語をうまく使えたことが、時代にマッチし、普段長文を読まなくなってきている人たちにも届いたのでしょう。今の時代に好まれるのは、移動中や隙間時間にスマホで読め、なおかつ感情が動かされるような気づきや学びがあったり、クスっと笑えるようなものだったり。文章が、ラジオ的になっているなと感じています。

―― ラジオ的というのは、ユニークな表現ですね。確かに、身近で温かい感じがします。