激動の2020年、それでも活躍しつづけた人は何をやめて、何を始めていたのか。そして、新たな2021年、どんな目標や抱負を胸に抱いているのか。各界で輝く人にその心中を語ってもらいました。

脳科学や心理学の知見から、人の感情や行動を解き明かしベストセラーも数多い脳科学者の中野信子さん。中野信子さんにこのコロナ禍で何を考えていたのか2020年を振り返ってもらいつつ、多忙な中で始めたこととやめたこと、今後の展望などを伺いました。

時間は命の一部

日経doors編集部(以下、――) 2020年は、誰もが経験したことがないコロナ禍という状況で、先の見えない不安に脅かされた1年でした。振り返って、中野さんはどんなことをお考えでしたか?

中野信子さん(以下、敬称略) 簡単に人に会えない状況になったからこそ、「誰と、どんなふうに人間関係を築きたいのか」をあらためて考え、実行するいい機会になりました。時間というのは言い換えれば、「命の一部」です。かけがえのないその一部をもらうのだから、せっかく会う時にはダラダラと過ごさず、限られた時間でどれだけ濃いやりとりができるかを意識して、その人と本当に話したいことや聞いてもらいたいことのために時間を使うという考え方に変わりましたね。

 もうひとつ、コロナ禍をきっかけに始めたのが、身近な人を意識して褒めること。これまで気恥ずかしさもあり、感謝の気持ちを伝えられていませんでしたが、明日どうなるか誰にも分からない状況のなか、伝えられるタイミングで言っておかないと後悔するかもしれないなと。特に夫には、日々の小さな感謝を口にするようにしています。うそ臭くならないように、自然に口をついて誰かを褒められるようになる、というのは、慣れていない人にとっては案外むずかしいものです。まずは「身近な誰かを褒めることには意外な心地よさと発見がある」と、感じるところから始めてみてほしいですね。

―― 確かに、コロナ禍は「自分にとってかけがえのないもの」を誰もが見つめ直す機会になりましたよね。中野さんは、「限られた時間でより密度の濃いコミュニケーション」を実践するようになったとのことですが、そのためには、どんなことを意識すればよいのでしょうか?