コミュニケーション下手な人ほど、それを商売にしていたりする

「人前に出る仕事に就いている人って、自己紹介や人間関係にしんどさを抱えている人が多いものです」
「人前に出る仕事に就いている人って、自己紹介や人間関係にしんどさを抱えている人が多いものです」

 一方でこの経験は、「人はその程度にしか相手のことを見ていない」ということへの気付きでもありました。

 それまでは少しでも拒絶されると自分のすべてを否定された気になっていましたが、実際には相手はそこまで自分のことを見ていない。そして見ていないからこそ、ちょっと会話の方法を変えるだけで相手に与える印象をガラリと変えることができるんだ、と学んだのです。

 コミュニケーションへの苦手意識が強かった故に難しく考え過ぎ、さらに空気が読めないことが災いしてけがばかりしていましたが、そんな私をはじめ、人前に出る仕事に就いている人は案外、自己紹介や人間関係にしんどさを抱えている人が多いものです。

 もし、もとから上手に人と会話ができていれば、わざわざ人前に出てきてまで自分の意見を言ったり書いたりする必要なんてないはずなんです。なのに出てきてしまうというのは、コミュニケーションに対する圧倒的なまでの渇きと不全感があるからなんですねえ。

 それを七転八倒しながら工夫しているうち、その工夫自体が商売になっただけで、だからこそ仕事を離れると無口なタレントさんも多いし、いまだに人間関係が苦手っていう芸能人の方も多いんです。

人はあなたが思うほど、あなたのことを悪く思ってないよ

 そして先ほどサラーッと母親の話を挟み込みましたが、そもそも私がコミュニケーション下手になった原因はいいモデルに恵まれなかったことにあると思っていて。

 人にどう思われるかに異常に敏感な母、妹に容赦ないダメ出しをする姉、ちょっとした一言にいら立つ父――それぞれに、傷つきやすい人だったんですね。悪気はなかったんでしょうけれど、全員余裕がないものですから、一家だんらんは長くは続きません。私も私でうまく立ち回ることができず、何か言っては誰かを怒らせることの繰り返しで、結果として安心して人と関わることが難しくなってしまいました。

 常に「絶対に私は嫌われる」「どうせ自分なんか」という意識があり、それが足かせになっていると長らく感じてきました。でも自分も子どもを育て、さまざまな呪縛からやっと解放されつつある今、ようやっと言えるようになったことがあります。それは、「人はあなたが思うほど、あなたのことを悪く思ってないよ」ということ。

 これは「あんたのことなんてどうでもいい」という意味ではなく、たいていの人は大雑把に相手を見ているということです。なぜならみーんな、自分のことで忙しいから(笑)。

 自己肯定感の低さから「人に嫌われる」と思い込み、いつも自己紹介に失敗してしまうかつての私のような方がいたら、もう一度言ってあげたいです。大丈夫。人はあなたが思うほど、あなたのことを悪く思っていないよ、と。

聞き手・文/小泉なつみ 写真/稲垣純也