具体的に変わったのはどういう点なのか

 それでは、具体的にはどういったことが実施されているのでしょうか。「取り組みがされている」と回答した人に、この1年で起こった変化について質問をした結果、「残業時間が減った」と答えた人が一番多く、4割近くの38.9%となりました。次いで「休暇が取りやすくなった」(26.2%)、「上司からの働きかけが増えた」(20.5%)、「業務の効率化が進んだ」(17.2%)となります。一方、政府が改革の一環として掲げる、柔軟な働き方=テレワークに該当する「働く時間を柔軟に調整できる(フレックス勤務など)」(12.1%)、「働く場所を柔軟に調整できる(在宅勤務など)」(9.3%)については、それぞれ1割前後となっており、現場では、勤務制度に関する取り組みがいまだに十分ではないことが分かります。

「残業時間が減った」人が4割近くに。その他、「休暇が取りやすくなった」人も26.2%という結果になりました 出典/インテージリサーチ
「残業時間が減った」人が4割近くに。その他、「休暇が取りやすくなった」人も26.2%という結果になりました 出典/インテージリサーチ

短時間勤務の理想に反して減らない残業時間

 労働基準法第36条が根拠となっている「時間外・休日労働に関する協定届」、いわゆる「36協定」では、残業時間は「原則として月45時間まで、年360時間まで」と定められていますが、普段の残業時間の分布を見ると、月に50時間を超えて働いている人は、全体の5.9%に及ぶことが分かりました。そのうち、女性の残業時間は20代で1.6%、30代では2.4%となっています。また、男性で最も残業時間が多いのは40代の12.3%ですが、同年代の女性では0.9%と30代までに比べて減っており、いわゆる子育て世代の「ワンオペ育児」の実態もうかがえます。「働き方改革」における少子高齢化対策はいまだに実を結んではいないようです。

「残業時間が減った」という人が4割弱いる一方、月に50時間を超えて働いている人は、全体の5.9%という結果に 出典/インテージリサーチ
「残業時間が減った」という人が4割弱いる一方、月に50時間を超えて働いている人は、全体の5.9%という結果に 出典/インテージリサーチ

 どういった働き方が理想なのかを調べるために、「できるだけ短い時間で働く」のと、「時間は気にせず、納得するまで働く」のどちらが自分の考え方に近いのかを尋ねると、「できるだけ短い時間で働く」のほうを選んだ人が、20代から60代までのすべての年代で7割以上という結果になりました。特に20代女性は79.5%、30代女性は76.2%となっており、8割近くの女性が勤務以外の時間を必要とし、大切にしていることがうかがえます。残業時間別に見てみると、一カ月の残業時間が50~60時間未満の人で65.1%、60~75時間未満の人では実に72.7%の人が「できるだけ短い時間で働く」ほうが理想だと答えており、実際の残業時間の長さや年齢にかかわらず、勤務時間は短いほうがいいと考えていることが分かりました。

「できるだけ短い時間で働く」のほうを選んだ人が、20代から60代までのすべての年代で7割以上に上ります 出典/インテージリサーチ
「できるだけ短い時間で働く」のほうを選んだ人が、20代から60代までのすべての年代で7割以上に上ります 出典/インテージリサーチ

 「できるだけ短い時間で働き、早く家に帰る」ことが理想だと考えている人は、年代を問わず70%もいるにもかかわらず、36協定に定められた残業時間を超えて働いている人はいまだ一定数いるようです。残業時間には男女差もあり、家庭を持っている人たちや、これから家庭を持とうとする人たちに対しては難しい状況であるとも考えられます。また、今回のアンケートから、テレワークなどの多様で柔軟に調整できる働き方が実現できている人は、現時点ではごく一部でしかないことも浮き彫りになりました。長年培ってきた企業体質の変換は難しいこともありますし、日本全体としてはまだまだ「働き方改革」が進んでいるとは言い難い状況です。しかし、今後取り組みが行われる予定であるとの回答も少なからずありました。これから、各企業での取り組みが浸透し、すべての人のワークライフバランスがうまく取れるような社会になるといいですね。

文/榎本志津子 写真/PIXTA