【質問10】退官後はどんな活動をされていますか?

【回答】「役所ではやり切れないこと」に取り組んでいます

和やかな雰囲気でユーモアを交えながらお話しいただきました
和やかな雰囲気でユーモアを交えながらお話しいただきました

 仕事という意味では「産官学」の「官」はやってきたので、「産」と「学」を学ぶために、大学の客員教授と民間企業の社外役員をやっています。

 役所ではやり切れないことにも取り組んでいます。その一つが、若い女の子たちの支援としての「若草プロジェクト」です。役所は頑張っていますが、行政における児童福祉は18歳で切れてしまいます。18歳で施設を出た子が一人でやっていけるのか。一人で頑張るために風俗で働いていたり、一人で頑張ったけれど耐えられなくなったりした子たちが、20代30代でやり直そうとしたときに、役所には助けてくれるものがありません。そういう部分を助ける活動をしたいと思って始めました。今、非常に力を入れているテーマです。

 それから、刑務所の中には知的障害のある方がたくさんいます。ハンディがあることで無銭飲食や万引きをしたり、「ヤクザのお兄さん」の使い走りになったりして、刑務所に行ってしまう人たちがいるのです。刑期満了になって釈放されても、元に戻ってしまう状況を支援できないかと思い、「共生社会を創る愛の基金」という活動も始めました。

 役所はとても大事ですし、今も応援したいのですが、役所だけではなく、市民やNPO、企業などが力を合わせてできることも、たくさんあると思います。今度は一市民として、行政の縦割りや制約がないところで活動してみたいと思い、この二つの市民活動に力を注いでいます。

 退官後は、「産」と「学」の仕事に加え、「役所ではやり切れないこと」の領域で活発に活動をしている村木さん。今までの経験を生かし、新しい挑戦をしている姿には、勇気づけられるものがありました。

聞き手・文/飯田樹 写真/小野さやか

村木厚子(むらき・あつこ)

1955年高知県生まれ。高知大学卒業後、78年、労働省(現・厚生労働省)入省。女性や障害者政策などを担当。2009年、郵便不正事件で逮捕。10年、無罪が確定し、復職。13年、厚生労働事務次官。15年、退官。困難を抱える若い女性を支える「若草プロジェクト」呼びかけ人。累犯障害者を支援する「共生社会を創る愛の基金」顧問。伊藤忠商事社外取締役。津田塾大学客員教授。著書に、「あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージ」(日経BP社)、「私は負けない 『郵便不正事件』はこうして作られた」(中央公論新社)、「日本型組織の病を考える」(角川新書)がある。