気後れしてしまう人は、ランチタイムを狙って情報収集を

 それでも知らない店に一人で入るのは気後れするという人は、まず比較的一人でも入りやすいランチに訪れるといいだろう。目星をつけた店にランチタイムに訪問し、店内の様子を知れば、夜に訪れるときの心理的ハードルが下がる。食後に「夜のメニューを見せてください」と言って、ざっと目を通しておけば、だいたいの料金が分かり、食べたい料理の当たりを付けられ、夜に一人で訪れてもまごつかない。

イメージ写真/PIXTA
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ひとり外食中は、何をすればいいのか

 「一人だと何をしていいのか分からない」という人には、料理やお酒に集中してもらいたい。友人などとの会食のときは、会話に夢中で、実はそれほど真剣に料理や酒を味わっていないことが多い。ひとりで外食するときは、料理の盛り付けや彩りの美しさ、温度、香り、食感、味を、五感を総動員して楽しんでほしい。

 例えば、目の前に出てきた風呂吹き大根の肉味噌のせ。出汁の効いた大根に肉の旨味が絡まり絶品だったとしよう。後味に爽やかな酸味が感じられたなら、その酸味の正体を暴くつもりで味わうことに集中する。そしてこの素朴な料理と備前焼き風の暗色の小鉢の取り合わせを楽しみ、これに合うお酒は何かを思案する。料理人が料理に込めた意図を読み取るつもりで飲み食いすれば、決して退屈などしない。

 

 「このお料理、やさしい酸味が効いていてとてもおいしいですね」と料理人に伝えれば、「ありがとうございます。実は肉味噌にトマトを加えているんです」とうれしそうに答えてくれるだろう。「これに合う日本酒をいただけますか」と頼めば、「それならこちらを」と、お酒の特徴を説明しながらおススメしてくれるはずだ。そうしてプロとの会話を通じて料理やお酒の知識が増えれば増えるほど、ひとり外食の時間は充実したものになる。

いいお客の条件は料理人とのほどよい距離感

 ただ、ここで気をつけたいのはうんちくを語らないということ。これは女性客より男性客に多いが、飲食店で半可通の知識を振り回すのは料理人にも、他の客にも嫌がられる。また、料理人を話し相手として独占してしまうのも、店や他の客にとって迷惑だ。料理やお酒のおかわりを注文したいときでも、料理人が忙しそうに調理しているなら、ひと段落するまで声をかけずに待つ。そのちょっとした気遣いを、目端の利く料理人なら必ず気付き、「いいお客様だ」と大事にされることにつながる。

 そして最後に、一人外食にスマートフォンはスマートではない。スマホをいじりながらの食事は大人の女性としての品位を下げるだけでなく、退屈や手持ち無沙汰を周囲に宣伝しているようなものだ。

「ひとりの時間を愉しくできる者でなければ、ふたりの時間も愉しくできない」。筆者が敬愛する作家の言葉である。ひとり外食とは自分で自分を楽しませる創意工夫である。

文/三橋英之、写真/PIXTA

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