西の魔女が死んだ
梨木香歩 著 (新潮社文庫) 497円(税込)

西の魔女が死んだ/梨木香歩著/新潮社文庫
西の魔女が死んだ/梨木香歩著/新潮社文庫

 複数の児童文学の賞を受賞し、映画化もされた名作です。西の魔女というのは、主人公のまいの母方のおばあちゃんのことです。そのおばあちゃんはイギリス人で、一人で山奥に住んでいます。中学校に入って登校拒否になってしまったまいは、しばらくそのおばあちゃんと一緒に住むことにします。そこで、おばあちゃんが魔女であるという告白をされ、自分も魔女修行を始めるのです。

 その修行は、精神を強くするというものでした。人生に悩むまいも精神を強くしたかったので、必死に修行に取り組みますが、なかなかうまく行きません。思い込みにとらわれないことや、意志を強く持つことはそう簡単ではないのです。実はそれは、西の魔女にとっても同じでした。強い精神をもって生きることの難しさと意味を考えさせられる一冊です。



存在の耐えられない軽さ
ミラン・クンデラ 著/千野栄一 訳 (集英社文庫) 886円(税込)

存在の耐えられない軽さ/ミラン・クンデラ著/千野栄一訳/集英社文庫
存在の耐えられない軽さ/ミラン・クンデラ著/千野栄一訳/集英社文庫

 チェコスロヴァキア出身の作家ミラン・クンデラによる哲学的小説。映画化もされましたが、原作には映画では描き切れない哲学的要素が満載です。冷戦の中、チェコスロヴァキアが一瞬の自由を謳歌した「プラハの春」。その直後に始まった旧ソ連の侵攻を背景に、イケメン外科医のトマーシュと、田舎娘のテレザ、奔放なアーティストサビナの三人が、政治に翻弄されながら複雑な恋愛生活を送ります。

 そんな中で、人生や人間存在の重さと軽さが問われていくのです。はたして重さと軽さではどちらが肯定的なのか? この本のタイトルの意味は? そんなふうに哲学しながら読んでもらうといいでしょう。



一九八四年
ジョージ・オーウェル 著/高橋和久 訳(早川書房/ハヤカワepi文庫) 929円(税込)

一九八四年/ジョージ・オーウェル著/高橋和久訳/早川書房
一九八四年/ジョージ・オーウェル著/高橋和久訳/早川書房

 全体主義への警鐘を鳴らしたジョージ・オーウェルの名作。映画化もされ、「ビッグ・ブラザー」をはじめ、今なおこの本の様々な概念が他の作品においても言及され、あるいはパロディとして使用されるほどの影響力を持っています。ビッグ・ブラザーとは社会を監視する架空の人物のことです。

 全体主義化する世界で、人々は言論の自由や思考の自由を奪われ、次々と洗脳されていきます。そしてついには、二重思考という名の思考しない習慣を植え付けられてしまうのです。これほど全体主義の支配者にとって都合のいいことはありません。この本を読むと、いかに言論や思考の自由が大事か気づかされます。戦争の影が見え隠れするきな臭いこの時代だからこそ、ぜひ一度読んでもらいたい一冊です。



アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
フィリップ・K・ディック 著/浅倉久志 訳 
(早川書房/ハヤカワepi文庫) 799円(税込)

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック著/浅倉久志訳/早川書房
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック著/浅倉久志訳/早川書房

 20世紀最高のSF作家といってもいいフィリップ・K・ディックの名作。映画「ブレード・ランナー」の原作でもあります。核戦争の後の近未来、人類は火星への移住を始めていました。人間そっくりのアンドロイドを奴隷として連れて行けるという特典付きで。そこから逃げてきたアンドロイドを仕留めるのが主人公リックの仕事。

 疲弊した地球の日常で、リックのように心の病んだ人々を癒すマーサー教は、感情移入によってみんなの心を一つにし、人生の苦しみを分かち合わせます。他方、人間そっくりのアンドロイドには、感情移入ができない。感情ゆえに苦しむ人間と、それが欠けているがゆえに苦しむアンドロイド。人間の幸せとは? いや、人間とは? そして人類の未来は? アンドロイドが現実になった今の時代、もう一度読み直されるべき名作です。



自由の国、平等の国
小川仁志 著/君野可代子 挿画・挿絵 (ロゼッタストーン) 1944円(税込)

自由の国、平等の国/小川仁志著/君野可代子挿画・挿絵/ロゼッタストーン
自由の国、平等の国/小川仁志著/君野可代子挿画・挿絵/ロゼッタストーン

 これは私が初めて書いた小説です。小学生からでも読めるようにしてあります。互いにまったく行き来できない自由の国と平等の国。そのそれぞれの国の少女が国境で偶然出会ってしまいます。そして二人は入れ替わることに……。

 見たこともない世界で、二人は互いの国のいいところと悪いところを知ります。さらに二つの国が昔は一つの同じ国だったことも。おじいさんやおばあさん、そして少年や猫たちに勇気づけられながら、二人はもう一度二つの国を一つにするために動き始めるのです。果たして自由と平等は相容れるのか? 自分でいうのもなんですが、現代の国際社会を彷彿させる政治哲学小説の誕生です。みなさんも一緒に、この本を通して世界の問題について考えてみてください。



文/小川仁志

Profile
小川 仁志
小川 仁志(おがわ ひとし)
哲学者・山口大学国際総合科学部准教授
1970年、京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。米プリンストン大学客員研究員(2011年度)。商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。専門は公共哲学。著書に『7日間で突然頭がよくなる本』、『世界のエリートが学んでいる教養としての日本哲学』(共にPHP研究所)等多数。