日々仕事にまい進している人、夢や目標に向かって、ステップアップのための勉強に励んでいる人も多いことでしょう。でも、お正月の数日間だけは、仕事のことや勉強は一呼吸置いて、気分転換してはいかがでしょうか。今回は話題の脚本家の恋愛小説と「オトナ女子向け」のマンガをご紹介します。

読書で気分転換しませんか (C) PIXTA
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坂元裕二 「往復書簡 初恋と不倫」

忘れていたトキメキがよみがえる

坂元裕二「往復書簡 初恋と不倫」リトル・モア刊、1600円
坂元裕二「往復書簡 初恋と不倫」リトル・モア刊、1600円

 男女がお互いに思い合っているのに、なかなか距離が近づかない。そんなドラマの登場人物に誰もが「むずキュン」したのは1年前の冬のこと。肌寒い季節は恋愛ドラマがヒットするといわれています。大人の恋愛ものが読みたい人にオススメなのが「往復書簡 初恋と不倫」です。

 筆者は、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の後番組で、こちらも大ヒットしたドラマ「カルテット」の脚本家の坂元裕二さん。厳密にいうと小説ではなく、坂元さんが演出も務めた朗読劇の台本を2作品収録した戯曲集です。もともとが朗読とあって、二人の登場人物のメールや手紙によって構成されていて読みやすいつくりになっています。

 日経ウーマンオンライン読者に特にオススメしたいのが、「不帰(かえらず)の初恋、海老名SA」。作品はこんな書き出しで始まります。

 「玉埜(たまの)です。返事くださいと書いてあったので返事書きます。迷惑です。僕と君はただ同じクラスだというだけです。話したこともないし、君のことをなんにも知りません」「これからもクラスの他の人たちと同じように、僕はいないものにしてください。よろしくお願いします」

 「三崎です。お返事ありがとう。よろしくお願いしますの使い方が面白かったです」

 主人公・玉埜広志(たまのひろし)は厚木市の中学校1年生。ある日、これまで一度も話したことがなかったクラスメートの三崎明希(あき)から手紙をもらいます。手紙をきっかけに交流が始まる二人。お互いが好きな食べ物の話、明希の家庭の事情、玉埜がクラスで無視されるようになったきっかけや二人で食べた海老名サービスエリアのラーメンの味。そんな中学生同士の淡い初恋は、突然、明希が引っ越してしまったことで一旦幕を閉じます。

 それから10年以上たったある日。結婚が決まった明希が「招待状を送りたいので自分のメールアドレスに連絡してほしい」という手紙を玉埜の実家に送ったことから、再びやり取りが始まります。ある事件に巻き込まれ、結婚どころではなくなった明希。それを支えるためにメールを送り続ける玉埜。手紙からメールに形を変えても、直接顔を合わせることはなく文章だけで交流する二人にもどかしさも覚えつつ、同時にこれだけ思える相手に巡り会えたことを羨ましく感じてしまう人も少なくないはず。

 「今いる場所は、かつて僕と三崎さんとで来た場所です。随分と変わりました」「当時を思い出します。ああしとけば良かった。こうしとけば良かった。そんなことを思いながら想像します。ありえたかもしれない僕と君の続き」「会社の帰りに待ち合わせて、同級生の誰が結婚したとか報告しあう。そんな明日があったかもしれない。きっと絶望って、ありえたかもしれない希望のことを言うのだと思います」

 大人になった玉埜が、中1のときに明希からもらった最初の手紙に改めて返事を書くラストの爽やかな余韻は必読。余談ですが、この作品の初演で玉埜を演じたのは今をときめく高橋一生さん。耳元で高橋さんの声を再生しながら読んでみるのも楽しいかもしれません。同時収録の「カラシニコフ不倫海峡」も「不倫をされた側の妻と夫が出会う」ところから始まる、切ないラブストーリー。きっと読者の胸を打つことでしょう。