社会に必要な「しなやかさ」とは

カワイ ただね、その一方で、同じように親の変化に直面している同世代がいることも分かってね。そういう友人は、大きな心の支えになりましたよ。

 「お互い大変だね」「うちは今こんなだよ」とか、情報交換したり、励まし合ったり。その瞬間は少しだけホッとできた。

 介護って、関係性も変わっていくのよ。

ニケ 関係性?

カワイ そうです。親子の関係性が変わっていくことは、想像以上にしんどかった。それまでの「父と娘」という絶対的な関係性が、父の変化をきっかけに崩れる。こっちが父を引っ張っていく立場になる。それまで一度も考えたこともない変化だから、かなり戸惑いましたよ。

ニケ 小室さんも、「奥さんと旦那さん」という関係とは変わったって言ってましたよね。大人同士の関係ではないみたいなこと。

カワイ そうですね。パートナーに変化が起きたときには、また違うしんどさがあるのだと思います。相手を大切に思う気持ちはどんどんと深くなる。四六時中頭から離れない。忘れられるのは仕事に没頭しているときだけ……。物理的な「時間」は一つだけど、人はその時間の中でいろいろな時間を生きているから。自分でも「どうにかしなきゃ」と思いながらも、自分を翻弄させる「時間」から逃げたくなる瞬間は、私にもありました。

 介護は終わりが見えないしね。介護が終わるときというのは……いなくなってしまうときでもあるし……。

ニケ ううう~、なんか切なくなってきました。

カワイ 東海大学医学部の保坂隆教授らが2007年に、在宅介護者を対象に行った調査では、回答した8500人中、約4人に1人がうつ状態で、65歳以上の約3割が「死にたいと思うことがある」と回答しています。自分が想像している以上に、冷たい雨が降り、心身が疲弊していくのが介護なんです。

 働いている人の実に5人に1人が「隠れ介護」で、その数は1300万人を超えるというデータもあります。その大半は40代、50代の課長さんや部長さんです。「介護のことを話せば、周りが気を使うから会社には言えない」「会社に言えば迷惑を掛けることになる」という理由で、周りには言わないというか、言えないのよ。

ニケ 孤独にさせちゃ、絶対にダメですよね。だって、介護 ⇒ 孤立、介護 ⇒ うつ、孤立 ⇒ うつ……みたいな負のスパイラルになっちゃうし。でも……そうならないために、ニケに何ができるんだろう。

カワイ 今回のようなこと、つまり小室さんの記者会見ね、そういうことがあったときに、アレコレ批判が出るのは仕方がないことかもしれません。でも、ちょっとだけ「その雨はどんな雨なんだろう」って気持ちを寄せるしなやかさがある社会であってほしいと、私は思っています。小室さんの最後のコメントは、きっとそういう気持ちがあったんじゃないでしょうか。

心身を疲弊させる雨に、せめて明るい色の傘を差せたら…… (C) PIXTA
心身を疲弊させる雨に、せめて明るい色の傘を差せたら…… (C) PIXTA

 ニケさんの同僚のように「あそこまで赤裸々にKEIKOさんのことを言うのはどうか?」という意見もありましたが、私はそれを隠さなくもいい社会を願います。車椅子でも、言葉がうまく出てこなくても、忘れてしまうことが多くなっても、元気だった頃の姿とは180度違う姿になっても、その事実を「かわいそう」という哀れみの感情ではなく、誰にでも変化は起こり、変化が起きてもそれはそれとして温かくありのままを受け入れられる社会。そんな社会であってほしいです。

ニケ 介護の映画とか、本とかもたくさん出てますよね? そういうのも見たり読んだりするだけでも、少しだけ寄り添えるかな?

カワイ もちろんです。あとは町で困っているお年寄りなどがいたら、「お手伝いしましょうか?」と声をかけるだけでもいいと思います。

ニケ 分かりました! 私、もう一度小室さんの記者会見、読んでみます。最初の印象とは違う受け止め方できるかもしれないし……。やってみます!

文/河合薫 写真/PIXTA

この連載は、毎週月曜日に公開。下記の記事一覧ページに新しい記事がアップされますので、ぜひ、ブックマークして、お楽しみください!
記事一覧ページはこちら ⇒ 【河合薫の「女性のリアル人生相談」】

【河合薫さんのFacebookページ】でも発信されています。
フォローすれば、記事公開のタイミングも分かりますよ!

※カイシャやオシゴトにまつわる悩みをお持ちの方は、ぜひ、【日経BP社お問い合わせフォーム】よりお寄せください。その際には、必ず「河合さん連載」と明記してください。こちらの連載を通じて河合さんに回答していただけるかもしれません。個別のお返事はしておりませんので、ご了承ください。