「こんなはずじゃなかった」でもある言葉に救われた

カワイ  誇りもへったくれもない。スッチーって、最低の仕事だと思いました。

ニケ  相談者の女性みたいに、総合職にいびられたんですか~?(苦笑)

カワイ  新人のCAの仕事は、ほとんどが肉体労働だったの。お客さんが乗り込むまでに、スリッパやヘッドフォンを300席もある客席すべてにセットする(現在ではスリッパは廃止)。機内のすべてのトイレ掃除をやり、トイレットペーパーや化粧水をきれいにセットし、新聞を折る、雑誌を飾る、レモンを花形にセットする……。

 食事のサービスは、まるで“運動会”。「お肉にしますか? お魚にしますか?」って、ひたすら配る、配る、配る。サービス終了後には、お客様が一人トイレに入るたびに掃除し、映画上映中はピンセット片手に客席の灰皿の吸殻を一つひとつ取り出し(今は全席禁煙)、機内のゴミを拾って回る。気圧の関係で機内ではお酒に酔う人が多いので、トイレで嘔吐物の掃除をしなきゃ……で最悪でした。

 「なんでこんなこと私がやらなきゃいけないわけ?」という仕事ばかりで。なんで「スッチーなんかになっちゃったんだろう」って後悔の嵐。そのとき大学の同級生に言われたことを思い出したの。「スッチーなんて、しょせん肉体労働だろ? 体力があれば誰でもできるんだよ」って。

ニケ  わあぁ~、ず、ずいぶんですね! でも、それってねたみなんじゃないですか? あるいは、薫さんが「私、国際線のスッチーになりました!」って自慢げに振る舞っていたから、ギャフンと言わせてやろうと思ったとか。

カワイ  どちらかと言えば、後者でしょうね。ただ、確かに実際のスッチーは「肉体労働」だし、「体力があれば誰でもできる」。彼の言う通りなんです。

ニケ  え~っ、そうは思わないけどなぁ~。まっ、いずれにせよ、CAの仕事に誇りを持てなかったから辞めちゃったってことですか?

カワイ  おそらく、あの一言に出合わなければ、ストレスでボロボロになって、サッサと辞めていたでしょうね。

 「キミたちのかわいい笑顔が、全日空を支えてくれているんだよ」

 って、あるスタッフに言われたんです。

 その何気ない一言のおかげで、私は退職を決意するまでの4年間、明るく、元気に働けました。人間って、ちょっとした一言に救われるっていうか、勇気付けられるものなのよね~。

 トイレ掃除も、吸い殻チェックも一生懸命やるようになったし、食事のサービスでも、「お肉柔らかいのでおいしいですよ!」とか「少しお塩を振るといいですよ」とか、一言添えてサービスするようになって。

 そしたらお客さんが降りていくときに「楽しかったよ」「ありがとう」って声をかけてくれたり、一緒に映った写真をアルバムにして送ってくれたり。

 そういうお客さんのメッセージに元気をもらって、「またがんばろう!」「お客さんを笑顔にできるスチュワーデスさんになろう!」って、心から思うようになった。

 たぶん“誇り”って、こういうコトをいうんじゃないのかな。誰かに認められたいとか、評価されるためにやるんじゃなくて、自分の仕事の先にいる“人”のことを思って仕事する。

 たった一人でもいいから、笑顔になる人がいると信じて仕事する。そう信じて働き続けることが、誇りであり、大事なんだと思いますよ。

ニケ  誇り……。うん、なんか私、反省……。すみません……。ん? アハッ! 私、誰に謝ってるんだ?

 ……っていうか、やっぱりそれでも頭くる! 総合職の女ども! モチベーションが下がる気持ち、分かるなぁ~。

カワイ  “ちくわ耳”になればいいのよ(笑)。総合職の女性にとっては「しょせん事務職」。そう思ってるんだから、言わせておけばいいのよ。