人事評価の枠には入らない、でも上司は認めている

カワイ ニケさんだって、「キミは我がチームのお母さん。これからもお掃除担当で頑張ってほしい!」なんて言われたくないでしょ?

ニケ ゲッ! 相談者の人は、そんなこと言われちゃってるんですか!?

カワイ いいえ、そうは言われてません。でも、彼女は「そう思われてる」と思っているんでしょう。だから、そんなんでいいのか? いいわけない! 「もっと仕事で結果を出さなきゃ」ってジレンマに陥っている。自分の存在意義に悩んでいるの。

ニケ 確かに、お掃除は仕事じゃないですけど、私の部署に“お母さん”みたいな人がいたら……、それはそれでうれしいですけどね~。なんか、お母さんがいるだけで、チームがまとまるような気がするんですよ。

カワイ 一昔前の日本の企業には、そういった社内の「潤滑油」になる人がいました。

 仕事がバリバリできるわけでもないし、出世してるわけでもない。いつも油ばっかり売ってて、のん気なトーさんみたいな人。でも、メチャクチャ勘がよくて、なんで分かったの? って不思議になるくらい、絶妙なタイミングで言葉をかけてくれるの。

ニケ あっ、いたいた! いました! 私が新入社員の頃、いましたよ! 全然、イケてないオッサンなんですけど、たまたま休憩室で一緒になったときに、突然、息子さんの話をしてくれたんですよ。どんな話だったか忘れちゃったけど……(苦笑)、私、その頃、なんかしんどかった時期で。話を聞いて、「もう一踏ん張りしよう!」って思ったんですよね。

カワイ (笑)何の話か忘れちゃった? まぁそういうものよね。でも、さえないオッサンがいたから、今のニケさんがいる。

 いつも自分が主人公になることが、仕事ではありません。裏方になったり、縁の下の力持ちになったり、ときには「火付け役」になったり。目に見えない仕事に無骨なまでに取り組むことも大切なんです。

ニケ でも、それだと上司から評価されませんよ~。

カワイ 評価されていないのではなく、社内の人事評価から漏れてしまう、というほうが正しいでしょうね。数字には出ない目に見えない成果を上げている人がチームに必要なことは、紛れもない事実です。

 幸い今回の相談者の上司は、きちんと評価してくれていて、「キミは本来の業務を全然やってないじゃないか。掃除は二の次だ!」とは言ってない。なので、悩む必要など一つもなくて、今まで通り、お母さんとして振る舞えばいい。慕われているから、お母さんなわけでしょ。素敵なことですよ。

 ただし、“子どもたち”もきちんと躾られて、自発的に掃除ができるようになり、彼女には少しだけの物理的余裕もできた。その時間を自分の業務に当てればいいの。

ニケ じゃあ、ちょっとずつ自分の業務を充実させて、今度“子どもたち”に、“働くお母さん”の背中を見せればいいんですね!

カワイ その通りです。それに、「会社」「部署」「チーム」の一員としての彼女の役割は、生産性向上にものすごく貢献してるのよ。