誰にも治せなかった依存症を一発で治した言葉とは?

カワイ 作家で精神科医のなだいなださんって、ニケさん分かる?

ニケ なだいなだ。逆さに読むと「だないだな」。キャハッ!

カワイ あ・の・ね―。

ニケ あいすいません! 不勉強故、存じ上げておりませぬ!

カワイ (笑)なだいなださんは5年前に亡くなってしまったけど、とても愛ある人でね。私はなだいなださんが書く文章が大好きでした。アルコール依存症の治療に長年関わってきたんだけど、文章で面白いことを言っているの。

 ある日、なだいなださんの元に「東京大学の教授に診てもらった」と自慢する患者が来た。その患者に、なださんは「それで?」って軽くいなした。そしたらその患者は「それでも治らなかった」と答えた。

 そこで「それじゃ、僕にも治せない。日本一の先生が治せなかったのだから、誰も治せない。覚悟を決めなさい。治らなかったら死ぬしかないでしょ。死ぬつもりなら、酒をいくら飲もうとあなたの勝手」と突き放したの。

ニケ 先生のとこに治療に来たのに「僕には治せない」って言い切るってすごいですね。ていうか、なんでそんなこと言ったんですか?

カワイ なだいなださんは、たくさんのアルコール依存症の患者さんを見てきました。みんな病院に来るわけだから「治したい」という気持ちはある。

ニケ ふむふむ。フツーは「気持ちがないと治らない」と言いますよね?

カワイ そうね。気持ちは必要だけど、気持ちだけでは治らないと、なだいなださんは言うの。

ニケ 周りの人が一緒に「治しましょう!」ってサポートしてあげることが必要なんじゃないですか。

カワイ それも必要。でも、それだけではダメ。

ニケ うーむ。本人の気持ち+周りのサポート+……あとは何だろう?

カワイ なださんが突き放した患者さんは、なんとその日以来、ピタリとお酒をやめた。

ニケ まじっすか! 突き放し作戦成功?

カワイ 半年くらいたった頃に、なだいなださんは「日本一の東大教授に止められなかった酒が、なぜ止まった?」と聞いたそうです。そしたらね。

 「先生のおかげです。この先生に頼っていても仕方がない。自分がしっかりしないとダメだと思ったんです」と答えたそうよ。

ニケ へーっ。

自立を促すために、時には突き放すことも必要 (C)PIXTA
自立を促すために、時には突き放すことも必要 (C)PIXTA

カワイ つまり、人間には自分で立ち上がる力が潜んでいるの。いわゆる「自立」です。

 本人の気持ち+周りのサポート+自立、という方程式の先に「行動の変化」がある。少々荒療治だけど、突き放すことも大切なの。

 38歳・経理さんはね、一生懸命サポートしてきたわけですよ。「困ったちゃん」に今の適当な働き方を変えたい気持ちがあるかどうかは定かではない。でも、「やばい!」という気持ちだけはあるわけでしょ?

ニケ ですね。取りあえずは謝ったりしてますもんね。

カワイ だったらあとは彼女が「自立」できるかどうかです。なので、「はいはい」「無理です」に加えて、「私には何もできません。覚悟を決めてください。その適当な働き方が治らなかったら、あとはクビになるしかないでしょ」と言っておやりなさい。

 それでも相手が変わらなければジ・エンド。でも、もし先のアルコール依存症の患者さんのように気付いて、必死で何かを始めたら、その時はそっと傘を差し出してあげてください。

ニケ あ! そういえば……明治生まれのひいばあちゃんが言ってました。「自分の足で立つ努力をしない人は、自己保身という病になる」って。

カワイ ひいばあちゃん、かっこいいわね!

ニケ テヘッ。ニケ はその血を引き継いでおります! というわけで38歳・経理さん、別世界へGO! でーす。また、来週―。

文/河合薫 写真/PIXTA

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