ジタバタせずに諦めて「真実を受け入れる」

カワイ 深い諦めというのは、「自分にはどうにもできない困難やジレンマ」に対峙(たいじ)するための傘の一つです。

 相談者の女性が嘆くとおり、自分のことですら分からないのに、部下のことなんて分かるわけない。そうです。分かるわけがないのです。

ニケ しょせん、分からないから、諦めろ、ってことですか? でも、それだと責任を放棄することになりませんか?

カワイ だから、深く諦める。分からないことを前提に、それはそれとして、上司としての役割を全うすればいい。

 そもそも「諦める」は仏教起源の言葉で、「諦」はサンスクリット語で「真実」を意味します。

ニケ 分かった! つまり、薫さんのいう「深い諦め」って真実を受け入れろってことですね。

カワイ そうです。分からないのは当たり前。相談者の人は、その「当たり前」に悩んでるわけでしょ? それって、意味ないですよね。そんな当たり前に、ジタバタするな、と。

 本当は「分かるわけない」のに、「分かった気」になって接しられたほうが、部下には迷惑。上司の価値観で、「これがあなたのためです」なんて言われたら、たまりませんよ~。

ニケ 薫さん、そうなんですよ~。「あなたのため」っていう人ほど、「自分のため」しか考えてないんですよね!

カワイ アッハハ、中には「ニケさんのため」って、心から思ってる人もいるかもしれないですよ。

 ただ、私は「あなたのため」という言葉は、軽軽に使うべきではないと思っているし、「あなたのため」という言葉を私は信じません。

 私が28歳のときに「自分の言葉で伝える仕事がしたい」と妄想を抱いてCAを辞めたとき、たくさんの人たちに「いい人見つけて結婚しなさい。キミのためにもそのほうがいいよ」って言われました。

 みんな本気で私のことを心配してくれてた。そりゃあ心配するわよね。だって、潔くCAは辞めたはいいけど、何をすればいいのか途方に暮れていたんだもの。

ニケ いい人見つけてたら、今の薫さんにならなかった。その言葉信じなくて良かったですね!

カワイ でしょ~?(笑) 要するに、「いい人見つけなさい」というアドバイスは、あくまでも「その人」の価値観でしかない。上司と部下関係も一緒です。自分の価値観を押し付けたり、自分のものさしで部下を測るのは、結果的に、部下の可能性を狭めてしまうことになりかねません。

ニケ だいたい育ってきた時代が違うから、仕事に対する考え方も違うんですよね~。

カワイ ニケさんでも、そんなこと思うわけ?

ニケ 私も一応、薫さんと同じ「昭和生まれ」ですから(笑)。やっぱ平成生まれは違うな~って感じますよ。めちゃくちゃナイーブだし、円周率3だと思ってるし~。とにかくよく分かんない。