なぜ浅田真央は「時代の主人公」となったのか

 真央さんと同時代を過ごしたスケーターには数多くの名選手がいました。

 トリノ五輪金メダルの荒川静香さんや、世界選手権で2度の金メダルを獲得した安藤美姫さんなど、美しく強い選手は真央さんだけではありません。

 しかし、それでもやはり、僕らにとって特別なのは真央さんなのです。

 真央さんは時代の「主人公」でした。

 主人公とは、強さだけでなれるものではありません。

 誰よりも大きな「未来」を予感させることこそが主人公の資質です。

 映画や漫画でもそうです。この人なら世界を救ってくれる。この人なら何とかしてくれる。

 打ちのめされてもそのたびに立ち上がり、ハッピーエンドへ向かうような希望をはらんだ人物こそが、時代の中心に立つのです。

 真央さんとの出会いは、まさにまぶしい未来への予感にあふれていました。

 トリプルアクセルという今なお世界で十指に満たない選手しか女子では決めたことがない大技を軽々と決め、3連続3回転ジャンプ、片手で頭上に足を持ち上げて回転する片手ビールマンスピンなど、世界でも類を見ない大技をいくつも引っ提げて、彼女は現れたのです。

 2005年のグランプリファイナル、15歳の真央さんが当時の世界女王スルツカヤを大差で破った試合は、予感を確信に変えるものでした。

 この子はきっと歴史上で一番の選手になる、という。