――治療薬を届けるだけでなく、人々の健康に欠かせない「保健システム」の構築支援をしています。

ダイブル 単に病院を作るだけでは不十分だから、です。社会の周辺部に追いやられた人々が通院したり薬を継続的に飲んだりできるような環境を作る必要があります。

 病院があっても行けない、薬はあっても入手できないのでは意味がありません。必要な人が必要な医療サービスや薬にアクセスできる状態を作るためには「コミュニティ・アウトリーチ」が欠かせません。我々は、地域にあるNGOなどと協同して事業を進めています。

 また、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage: UHC)と呼ばれる保健システムの構築にも関わっています。これは、誰でも、どこにいても、必要な医療を無理のないコスト負担で受けられる仕組みです。日本には、国民皆保険制度がありますが、同じようなものをイメージしていただくと分かりやすいです。

――確かに、日本の働く女性は健康保険証を持っていますから、お金のことはあまり気にせず病院へ行けます。

ダイブル 日本は世界でも有数の妊産婦と乳幼児の死亡率が低い国です。かつては、今の途上国と同じように高い死亡率でしたが、第二次世界大戦後、劇的に改善しました。

 ただし、これは日本が経済発展する前のことでした。なぜ改善したか、と言うと、日本が国民皆保険制度を導入したためです。これにより、貧しい人も必要に応じて病院へ行けるようになりました。つまり、医療上の公平性が確保されるようになったのです。

 日本の経験は、今の途上国の問題を考える際、とても重要です。確かに、社会全体が豊かな方が感染症などの死者は少ない。でも、さほど豊かでなくても、UHCや国民皆保険という形で医療へのアクセスが平等にすべての人に開かれれば、今の途上国の健康問題も大きく改善されるはずなのです。

 平等という意味では「ジェンダー平等」も大事です。例えば、女の子が就学するようになると、HIV感染率は下がります。児童婚も減ります。学校へ行くことで文字が読めるようになり、視野が広がり、自尊感情が高まる。それは健康状態をよくすることにもつながります。病気を治すというと薬や病院、医療従事者の役割に注目しがちですが、社会のありよう、公平性や少数者の人権への配慮など、包括的に取り組む必要があります。

――日本の働く女性たちに伝えたいことがあればお願いします。

ダイブル 世界をより良い場所にするために、エンゲージ(参加)してください。方法は色々あります。まず、知ること。そういう情報に関心を持ったり、友人と意見交換をしたり、寄付をしたり、小さなことからでも世界の問題に関わってほしいと思います。

取材・文/治部れんげ