大物俳優をどのようにキャスティングした?

――描かれたさまざまな人物像は、世界各国を旅した経験が生かされているとのことですが。

 私はいろいろな国に興味があるので、これまで南北アメリカから、アフリカ、ユーラシア大陸まで40カ国以上の土地に降り立ちました。

 旅行している時って、人はどこか自分との接点を探そうとしている気がします。そうした中で感じたのが、どの国の人も違っているようで、コアな部分にあるものは同じだということでした。人には「文化的仮面」ってありますよね。この「仮面」を取ってしまえば、人間は皆同じ。誰でも一番欲しいのは「愛」で、そのために悪いことだってしてしまう。「愛」を守ろうと、怖くなってしまう。その恐怖心を「仮面」が包み隠しているような気がするんです。

――豪華なキャスティングはどのように決まったのでしょうか。

 ジョン役のジョシュ(ハートネット)は、私のエージェントが渡してくれたリストに名前がありました。彼はハリウッドの大スターですが、自分探しのためにしばらくハリウッドから離れて私生活を優先していた時期がありました。日本では人気者の英会話教師だけど、アメリカに行ったら誰でもない、地味な印象のジョンという役に呼応するところがあると思いました。彼とは所属するエージェンシーが同じだったという運もあり、エージェントを通じてジョシュに脚本を送ってもらいました。

 その時点で、役所広司さんに出ていただけることは決まっていました。テレビドラマの撮影が終わったタイミングで、たまたま2日くらい撮影のスケジュールが空いていて、制作のサポートをしてくださったプロデューサーの方のつながりで脚本を送らせていただいたら、OKをいただけたんです。そのようなミラクルが起こっているので、またミラクルが起こるかもしれないと思ったら、オファーをして48時間後にはジョシュから電話があり、15分話して「イエス」と出演を快諾してもらえました。

 寺島しのぶさんの名前は、やはりプロデューサーからもらった候補リストにあり、この方に出演をお願いしたいとすぐ思いました。海外生活が長く、日本映画をよく知らない私に、大学時代、友人が薦めてくれたのが寺島さんの主演映画「ヴァイブレータ」だったんです。彼女の演技はよく覚えていて、チャレンジ精神が旺盛で大胆不敵。素晴らしい女優さんだと思っていました。役者としての演技の幅が広くて、もう「彼女しかいない」と。脚本を送ったら会いたいと言ってくださって、お会いしたら意気投合。寺島さんも、私と「動物的感覚で合うと思った」とおっしゃっていましたが、私も同感でした。

 私は、それぞれの俳優さん自身が人間として持っているものを作品に生かしたいと思うんです。「私がイメージしている型に沿って演じてください」ではなく、俳優とコラボレーションをすることで、私の持っているイメージとは違う役の面が出てきたりして、脚本を書いたのは私でも、演じる俳優さんによって「そういう面があったか!」と発見があります。そうした「余白」を大切にしたいと思います。

 出来上がった作品を客観的に見ると「こういうことが伝えたかったのかな」と自分が「知らなかった」ことが見えたりします。私は作品に自分のメッセージを込めようとは思っているわけではなく、ただ物語を「伝えたい」というところから始まります。今回の作品で言えば、なによりも節子の声を伝えたいと思いました。

――初の長編監督作でありながら、出演俳優が皆、経験豊かなトップスターという環境で仕事をされる中、難しかった部分、気付かされたことはありますか。

 難しかった部分はありませんでした。タイトなスケジュールの中、俳優の皆さんには本当に助けられました。プロとはこういうものかと、驚きと刺激の毎日でした。 気付かされたのは、俳優の皆さんはとても直感が鋭く、演技に無理があったり、やりにくそうだったりする際は、彼らの直感を信じて修正すべきだということ。大抵は脚本に問題がある時、そうした事態が起こりました。