求められているのは不完全なロボット?

 プロジェクトはまず、東京で議論を行うところからはじめました。肝付町ともオンラインでつなぎ、エンジニアや介護関係者を集めて、「本当に必要なものは何か?」について、Pepperが数十台もいるアトリエで3カ月ほどかけて話し合い、開発を行いました。

 そして、開発したプログラムとPepperを、エンジニアたちと一緒に肝付町に持って行きます。

 最初は、高齢者の方々に、Pepperと遊んでもらおうと思って持って行ったんです。でも、回を重ねていくうちに、そういう単純なことじゃないって気が付きました。

 実は、実証実験を行った当初、Pepperが30~40分ぐらいずっと起き上がらなかったんです……。でもそのときに、お年寄りたちがみんなで、「Pepper、Pepper」って呼びかけたり、手を触ってくれたりしました。ふだんは立ち上がれないのに、立ち上がって近づいて来てくれた人もいました。

 それが私の中で印象に残っていて、「そうか、ロボットっていうのは、人間の“やってあげたい気持ち”を引きだす存在になるんじゃないか」と気が付いたんです。

 少子高齢化というのは、単に人口が減っていくだけではなく、地域の中で子どもが減っていくということ。つまり、大人が面倒をみてあげる存在だけがどんどん減っていっているんですよね。

 東京にいると、ロボットや最新のものを介護の世界で使おうと考えたとき、面倒を見てあげるとか、見守ってあげるとか、「お年寄りに何かをしてあげる」という方向に行くと思うんです。

 でも、現場で本当に求められているロボットって、「何かしてあげたい」と思わせるロボットなのかもしれない。

 ロボットと高齢者の方々が接しているのを見たときに「そうか、おじいちゃんおばあちゃんって、ロボットに面倒を見てほしいんじゃなくって、面倒を見てあげたいと思ってるんじゃないか」と、一つの答えが出ました。