EU統合は、ヨーロッパ人のプライドとロマンの結晶

高山:なるほど! 外に目を向けて体験することが大切ですね。今後、この騒ぎはどうなっていくのでしょうか?

中野:一部では、イギリスは終わったといわれていますが、離脱までの猶予期間が手続き開始から2年あります。イギリスも経済的な打撃を受けることは分かっているので、長時間にわたって交渉を引き延ばしていくでしょう。一方、EUは見せしめもあるので、イギリスに対して厳しく対処していくとは思いますが、EUにとってもイギリスが離脱する影響は大きいので、喧嘩別れにならないよう配慮していくのではないかと思います。

 つまり、今すぐ何かが変わるということはないので、当面はこの事象だけで世界経済に大きな影響が出るということは考えにくいでしょう。

高山:なるほど。では、この騒ぎが落ち着けば、この混乱も解消されるということでしょうか。

中野:そうですね。イタリアのレンツィ首相が今回のイギリスのEU離脱は、「なんのために欧州は統合したのか、もう一度みんなで立ちかえれる機会をもらった」といっていたのですが、そこへの回帰が一番大切なのではないでしょうか。

 そもそも欧州統合が実現する前は、EUという組織が発足するなんてありえないといわれていたんです。ドイツにしてみれば、経済状況からみれば、わざわざ経済が相対的に弱い国と統合する必要はなく、マルクだけで十分な対外競争力があったわけです。

高山:確かに! なぜ統合できたのでしょうか?

中野:そもそもヨーロッパ人には、かつてはヨーロッパが世界を支配していたという誇りがあるわけです。ですから、アメリカに支配される世界に対抗したいという思いがあった。そして、過去の戦争の反省から次世代に平和な欧州をつないでいきたいという思いがあるわけです。つまり、EU統合は、ヨーロッパ人の経済合理性を超えたところにあるプライドとロマンの結晶なんです。昔働いていた職場にドイツ人の同僚がいたのですが、彼は、「必ず欧州は統合するよ」といっていたんです。この崇高な目標は欧州人全体の心に根付いた思想なんですね。

高山:EU統合の裏には、すごく崇高な思いがあるんですね。

中野:そうですね。ですから、僕はレンツィ首相のいうようにヨーロッパ連邦の真の実現という原点に向けて、今の制度の矛盾への改革に向けた求心力が一気に高まるのではないかと思っているんです。

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高山:そのような思想がヨーロッパ人全体の心に流れているとしたら、今回の事象をきっかけに結束が強まっていきそうですね。

中野:そうなると思いますよ。今回のイギリスEU離脱は、本当にいろいろと考えさせられることが多いと思います。イギリスの二の舞にならないように、私たち日本人は、国外にもしっかりと目を向け、「身の回りの常識は世界の非常識」ということを認識し、常識の棚卸をすることが大切です。

高山:ありがとうございました! 最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。

中野:「日経ウーマンオンライン女子よ! リュックを持って外に出ろ!」ですね。

文/高山一恵

プロフィール
中野 晴啓
セゾン投信(株) 代表取締役社長
中野 晴啓(なかの はるひろ)さん
 1963年生まれ。1987年明治大学商学部卒業後、クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社で資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ、運用責任者として運用アドバイスを手がける。(株)クレディセゾンインベストメント事業部長を経て、2006年セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、2本の長期投資型ファンドを設定。資産形成世代を中心に直接販売を行ない、口座数9万口座、運用資産総額1200億円超を有する。積立による長期投資を広く説き続け、「積立王子」と呼ばれている。『預金バカ 賢い人は銀行預金をやめている』(講談社α新書)、『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『見る・読む・深く・わかる 入門投資信託のしくみ』(日本実業出版社)などの著書がある。公益財団法人セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。

高山 一恵
(株)Money&You取締役
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
DC(確定拠出年金)プランナー

高山 一恵さん
 1974年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性向けFPオフィス、株式会社エフピーウーマンを創業、10年間取締役を務め退任。その後、株式会社 Money&Youの取締役へ就任。全国で講演活動・執筆活動、相談業務を行い、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。 女性向け、一生涯の「お金の相談パートナー」が見つかる『FP Café(R)』を運営。 「Woman Type」「ZUU Online」等のウェブ媒体での連載、「日経ウーマン」「プレジデントウーマン」「Oggi」「FRaU」などの女性誌にも多数出演。 主な著書に「金融機関が教えたがらない年利20%の最強マネー術」(河出書房新社)、「主な著書に「金融機関が教えたがらない年利20%の最強マネー術」(河出書房新社)、「パートナーに左右されない自分軸足マネープラン」(日本法令)、「史上最強のFP2級AFPテキスト」「史上最強のFP3級テキスト」(ナツメ社)「お金の新常識」(スタンダーズ)などお金の分野での著書は数十冊に及ぶ。