貧血の怖さを知った瞬間

貧血について考えるようになったきっかけを語る山本さん
貧血について考えるようになったきっかけを語る山本さん

 研究室には色々な大学から来ている学生が大勢いて刺激的な環境でした。研究所で先生は、自分の頭の中を整理して物事の理解を深めるという意味で文章を書いてみろとおっしゃった。そこで調べ始めたのが子宮頸がんワクチンについてでした。産婦人科医を志望しており、世間では子宮頸がんワクチン接種後の副作用や国よる接種勧奨の是非が議論されていたからです。

 その頃、副作用には痛みや心理的ストレスが関与していることが分かってきていたのですが、調べてみると、子宮頸がんワクチンの接種推奨年齢は、小6から高1とされているものの、15歳前後には「迷走神経反射」(痛みやストレスなどが迷走神経を刺激し失神などに至る)が生じやすいことなどがあり、この年齢での接種には議論が必要だと思われました。

 子宮頚がんの原因となるウイルスは性交渉でも感染します。女性の性交渉の経験は20歳を超えるとそれ以前に比べ大きく増えるというデータがあり、私は接種は大学生や成人になってからでもいいのではないかと考えました。

 こうしたことを文章にまとめて、朝日新聞の「私の視点」に投稿したところ、これが掲載されました。大学5年生のときのことです。もともと、まとまった文章を書いたことはほとんどなく、子どもの頃は作文を親に代筆してもらい提出したことがあるぐらい。でも、この投稿をきっかけに、自分の考えをまとめて文章を発表するのは楽しいと思うようになりました。

 今回本にまとめた貧血について考えるようになったきっかけは、大学の友人たちに献血に行こうと誘われたときのこと。私はそれまでにも何度か献血しようとしたことがあって、そのたびに「献血できない」と言われていました。そのことを伝えたら、周囲が驚いたんです。

 献血できなかったのは、ヘモグロビン濃度が基準を満たさなかったから。ヘモグロビンというのは、血液中の赤血球にある血色素で、酸素を全身に運ぶ役割を果たします。ヘモグロビンの主な材料は鉄で、これが不足すると貧血(ここでは鉄欠乏性貧血のこと、以下同様)になります。

 それまで、貧血については知識としては知っていて、女性に多いことも分かっていたんですが、あまり問題意識はなかった。そこで上先生に、現在貧血についてどんなことが分かっていて、なにが分かっていないのか調べてみなさいと言われ、論文を読んだりネットの情報を集めたりしました。すると、妊婦の貧血で低出生体重児(出生時体重が2500g未満の子ども)が増えているという米ハーバード大学の研究者たちによる論文を見付けたんです。早産になるリスクも増えるという。貧血が妊娠中の胎児に影響するとは耳にしていたのですが「こんな問題があるんだ」と、体が震えました。