一枚一枚を積み上げてきた

――周りのトライアスリートさんは、どんな人たちが多いのですか?

道端: 私の練習仲間は「朝スイム」のメンバーが多くて、朝6時半から8時まで週3回、20人くらいで泳いでいます。東京はトライアスロン・スクールが多くて、あちこちで朝スイムをやっているんです。今朝も一緒に泳いできました。部活みたいで楽しいですよ。

 朝スイムに来ている皆さんはお仕事をされているので、8時に終わったらそのまま出勤していきます。時間のある人は近所の喫茶店で朝ごはんを食べて、9時すぎに解散して。練習はきついですよ。コーチには日本選手権で優勝しているようなプロ選手もいて、水泳部みたいなメニューなんです。でも一人で練習するよりも、みんなと会えるから練習行こう、みんなと一緒に頑張ろう、と刺激になります。

 ここの人たちは、大人になってトライアスロンに出合った人がほとんどです。運動が苦手だった人も少なくないです。今まで5mも泳げなかった方が226kmのアイアンマンに出て3.8km泳いだ、という例も実際にあります。水泳は、幼少期のうちにやらないと大人になってからは難しい、といわれることがよくありますが、決してそんなことはないと思います。泳げなくても、「泳げるようになろう」という気持ちでコツコツ練習を積み重ねていった人たちは、みんな泳げるようになっています。

――運動が苦手でもできる、それは勇気が出ます。

道端: みんなスタートは初心者なんですよね。自転車だってママチャリなら乗っていてもロードバイクとは姿勢が違うので、イチから始めるんです。何カ月後に何km走る大会に出るからと、100km走ったり、大きな山を登ったり、いろんな練習を重ねていくうちに、どんどんできるようになっていくんです。何歳からでも挑戦できるんです。

 エンデュランス(耐久・長距離)スポーツというのは、ゆっくりでも自分のペースで積み上げていけるのが特徴であり、良い点でもあると思います。特にアイアンマンという一番長いのは226kmを17時間の制限時間で走るので、むしろ自分のペースでないと完走できないんですね。

 自分なりのペースで、自分なりに気持ちよくゴールして、自分なりの達成感がある。私はショート(51.5km)専門にやっているので、アイアンマンに挑戦されている方々は、本当に尊敬しています。

――そうはいっても道端さんは、何度か優勝されたりニュースにも載ったり、素晴らしい成績を挙げていますね。

道端: 私もスタート時点では底辺でした。私は才能のあるスポーツ選手とは違うから、一番遅いところから、一枚一枚、紙を重ねるかのように、この2年くらいで、外から見えるところまでようやく届いてきた感じでしょうか。それまでは周りに見えていなかったかもしれませんが、私は毎年同じペースで進んできたつもりです。

 どんなに有能で成功しているように見えている人でも、周囲には見えない毎日の涙ぐましい積み重ねがあるのだと思います。みんな「努力」という薄い紙を、諦めずに何枚も何枚も重ねているんですね。

「努力という紙を何枚も何枚も重ねてきました」
「努力という紙を何枚も何枚も重ねてきました」

――小さなステップの積み重ねですね。

道端: 私は毎日の生活のリズムの中にトレーニングの時間をつくっていました。練習メニューを考えるのも好きです。誰かと競うというより、自分のタイムを縮めていきたくて、一年一年を大事にやってきました。「何カ月後の大会に合わせて、さあスタート!」って切り替えていくタイプではないですね。