番組の中で岩合さんはよくネコに話しかけている。その話しかけ方にもネコに好かれる秘密があるのだろうか。

 「僕は海外のネコでも日本語で通じるんじゃないかと思うんです。というのは、ネコって言語じゃないんですよね。以前、ロンドンで歩いていたら、いいネコがいたので“Good morning”と言ったんです。でも知らん振りされたんですよ。そのとき、ニューヨークからロンドンに行ったので、アクセントがアメリカ英語だったんですね。それをイギリスのアクセントで“Good Morning”と言い直したら、パッとこちらを見たんです。

 だからネコは言葉じゃなくて、音が大切なんですよね。僕がよく言う“いいこだね”っていう言い方はどんな国へ行っても一番喜ばれます。たぶん音の調子なんでしょうね。あと“かっこいいね~”も、けっこう通じるんです」

 もちろん声をかけずに撮る場合もある。下の写真は、モロッコのシャウエンで撮影した写真だという。

 「これは、一瞬の出来事だったんですが“ネコ版のロミオとジュリエット”と名付けました。最初、メスネコがピョコンと上に乗って、引っ込んだり顔を出したりしていたんです。しばらく見ていたら、そのうち茶色いオスが現れて、彼女の顔が見えないのに、一声鳴いたんですよ。“ジュリエーット”ってね(笑)。

 そうしたら彼女が上から顔を出しました。“ロメオー”って言ったかどうかはわからないけど、その瞬間を撮りました。その後彼女はポーンと飛び降りて逃げちゃって、オスが必死に追いかけていきました。それがネコの恋の駆け引きなんですよね。素直に従って仲良くなったらつまんないんじゃないかな。でもメスも長けていて、逃げるフリをするんです。必ず立ち止まって“ついてくるかしら?”って見るんですよね。たぶんヒトの恋の駆け引きとと同じじゃないかな」

 「ネコの味方を増やしたい」という岩合さん。その言葉には、ただネコをかわいいというだけでなく、生き物として尊重し、本当の魅力を知ってほしいという思いがある。だからこそ、岩合さんの写真にはネコ自身が持つ命の輝きがくっきりと映し出されているのだ。


『ネコへの恋文』
 著者:岩合 光昭
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取材・文/郡司真紀、岩合さんポートレイト写真/的野弘路、ネコ写真提供/岩合光昭
構成/白澤淳子(日経ヘルス編集)