70代と50代のカップルの恋愛を描いた『ダーリンは70歳』が、今年2月の発売から約3カ月で10万部の大ヒットとなっています。著者は『毎日かあさん』で知られる西原理恵子さん、51歳。西原さんの「ダーリン」は、美容外科の第一人者、高須クリニックの高須克弥院長です。

 誕生日プレゼントに美容整形をリクエストした西原さんに「そんなのは止めて一緒に年を取ろう」と優しく語りかけたり、些細な行き違いからスネてしまった西原さんに「悪いところがあったら教えてほしい。もう70歳だからケンカしている時間がもったいない」と訴える高須院長。老年の域に達したカップルのラブラブ模様と高須院長の名言に感動したという人が続出し、男女を問わず幅広い年齢層から支持を得ています。

 『ダーリンは70歳』の担当編集者で、西原さんと30年来の付き合いがある小学館の八巻和弘さんは「連載開始時に、西原さんには院長との恋愛について照れずに描いてほしいと伝えました。二人の関係は傍で見ていても面白いし、ギャグ漫画としても熟年恋愛モノとしても成立しているのではないでしょうか」と作品について分析しています。

 西原さんご本人も、4月にゲスト出演したフジテレビ系の情報番組内で「今まで自分の身の回りに起きた不幸ばかり漫画に描いてきましたが、今回初めて幸せな話をネタにしました」と発言しました。

 ロングラン連載中の『毎日かあさん』では、元夫の病気や死別などを赤裸々に描いてきた西原さん。西原さんは、これまで一体どのような人生を歩んできたのでしょうか。

義父の死、予備校での挫折から「エロ本のカット描き」に

 西原理恵子さんは、1964年11月1日、高知県高知市に生まれました。西原さんがお腹にいる時に両親が離婚。西原さんは実父の顔を知らずに育ちました。7歳の時に母が再婚し、義父の愛情を受けて育ちますが、その義父も西原さんが19歳の時に借金苦によって自ら死を選びました。

 波乱に満ちた幼少期を送りながら、次第に「絵を描いて食べて行きたい」という夢を膨らませていった西原さん。美大進学を目指して上京し、予備校を経て武蔵野美術大学に合格しました。しかし、美大進学希望者が多数集まる予備校に身を置いたことで、自らの画力について「美大の門を開いたら自分が最下位(になるだろう)」と痛感。「イラストレーターは無理。でも、エロ本なら使ってもらえるかも」と考え、成人誌に売り込みをしたと後に語っています。(日経BPnetビズカレッジ、2009年5月27日のインタビューより)。

 こうして、大学在学中から成人誌のカットを描く仕事を始めた西原さん。絵の横に本文に対するツッコミを書き添えた独特のスタイルが編集者の目に留まり、1988年に小学館『ヤングサンデー』で漫画家としてデビューしました。

 西原さん独自のイラストとツッコミを絡めたスタイルは、その後ノンフィクション漫画のジャンルで大きく開花します。剃髪して出家したり、ジャングルにこもったり、期間限定でホステスデビューしたりという体験取材モノからギャンブルでの失敗談までこと細かに綴り、漫画誌だけでなく情報誌にまで幅広く連載を展開。一方、幼少期を過ごした高知の漁村をモチーフに、男女の愛憎や貧困問題を叙情的に描いたフィクション『ぼくんち』が1997年に第43回文藝春秋漫画賞を受賞。これにより、西原さんは青年漫画誌界の人気漫画家の地位に一気に上り詰めました。