ニッポンのお正月の風物詩ともいえる箱根駅伝で、今年初の頂点に立った青山学院大学。その圧倒的な強さの秘密は一人ひとりが自分の目標に向かって“わくわく”努力を重ねた日々にありました。

日経WOMAN2015年3月号掲載記事を転載加筆。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

“比べない”目標設定でちゃらくても1位!

 誰も予想していなかった、圧倒的大差をつけての初優勝だった。今やニッポンのお正月に欠かせない箱根駅伝。優勝の大本命だった駒澤大学、昨年優勝の東洋大学を抑えて東京・大手町のゴールテープを真っ先に切ったのは、フレッシュグリーンのユニホームの青山学院大学だ。30年以上出場記録のなかった青山学院大学が、箱根駅伝に復帰したのは6年前。その後22位、8位、5位……と順位を上げ、ついに優勝を果たしたのだ。

 全106.9km、10時間49分27秒の間、印象的だったのは選手たちの表情だ。勝負どころ、5区の苦しい山登りを大会新記録で駆け上がった神野大地選手をはじめ、たすきをつないだ10人は皆、こちらまでワクワクするような笑顔がはじけていた。

 そして走る姿。上半身がブレない美しい走りやしっかりとした腕の振りに、解説の瀬古利彦さんも「本当にいい走りをしています」と絶賛していた。

 今年の青学陸上競技部の箱根駅伝のスローガンは「わくわく大作戦」だったという。どんなわくわくトレーニングがこんなに強いカラダと心をつくり上げたのか。ぜひ働く女性たちにも教えてもらいたいと、東京・町田市にある寮を訪ねた。

 取材場所の食堂に行くと、「わー、女性記者に女性カメラマン、テンション上がるなあ! 自称・真田広之です!」と原晋監督はいきなり超フレンドリー。現在、寮では部員48人全員が寝食を共にし、トレーニングに励み、大学に通っている。朝9時からの取材に12人の選手が集まってくれて撮影。そして差し入れのドーナツに大喜びすると……なぜかいきなり始まるジャンケン大会! とにかく監督も選手もとびきり明るい! 「でしょ。青学はちゃらいとか言われるけれど、それでいいの。楽しくやらないとね」と原監督。

 実は原監督は、有力校の監督としては異色の経歴の持ち主だ。大学時代に箱根駅伝の出場経験はなく、卒業後に陸上選手として中国電力陸上部に入社するもケガに苦しみ、27歳で引退。ところが、その後の10年間のサラリーマン生活では“伝説の営業マン”となる。

 高額の省エネ空調機械の提案営業力が社内トップとなり、わずか5人の新規部署を100人以上の大所帯に育て上げた。04年、青学が陸上競技部の強化に乗り出すと、退社。自ら“10年で箱根の優勝争いをする”ことを目標に掲げて、監督に就任した。

 ところが、陸上競技部の弱体化は予想以上だった。「部員の口からは後ろ向きな発言しか出てこない」ダメっぷり。「練習したってどうせ……」と言う彼らに「真剣にやって出た結果なら、負けても何が足りなかったのかを絶対に学べる」と説いた。

 営業マン時代の経験をもとに選手一人ひとりの自主性を引き出す指導をスタート。全員が毎月の目標をA4の紙に書き、進捗状況をグループミーティングで報告する。「誰かと比べる必要はない。大切なのは自分の言葉で、自分の能力を考えて目標を立てて、達成に向けて一生懸命頑張ること」。

 だからこそ、結果が何位であっても「笑顔でゴールしなさい」と選手たちには言い聞かせている。「悔し泣きなんてなんの意味もない。練習で泣かなくちゃ」

手書き文字はチーム一の美文字の持ち主、箱根駅伝往路の4区を走った田村和希選手が書いてくれた
手書き文字はチーム一の美文字の持ち主、箱根駅伝往路の4区を走った田村和希選手が書いてくれた

働く女性も姿勢は大事!

 選手たちの走る姿の美しさも、日々の十分なトレーニングの成果だ。「働く女性も姿勢は大事だよ! 年齢とともに筋肉も衰えてくるからしっかり鍛えて」と原監督。中野ジェームズ修一さんのメソッドを基にメニューを組んでいるという監督。そのポイントはカラダのバランスやゆがみを整え、軸をしっかり保つための体幹トレーニングだという。

 次回(2月5日公開)は、神野選手と藤川拓也選手に教えてもらった、簡単にできる「二の腕 スッキリ」「太もも ほっそり」トレーニングなどをお届けします。お楽しみに!

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原 晋
原 晋さん
青山学院大学 陸上競技部監督
広島県出身。県立世羅高校、中京大学、中国電力で陸上長距離選手として活躍。同社では5年間の競技生活後、営業マンとして10年間仕事に励む。04年青山学院大学監督に就任、12年の出雲駅伝、15年、16年と箱根駅伝で2年連続チームを優勝に導く

取材・文/藤井弘子 写真/小野さやか

日経WOMAN2015年3月号掲載記事を転載加筆。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります