出場回数が多い選手たちに期待

 「五輪の本番は2回目」です。もちろん初出場であっても飛び抜けた実力と精神力があれば、金メダルを取ることはできるでしょうが、すべての選手がそうではありません。1回目の出場では、まず「出ること」自体が目標であり、出場を決めたところで一つ達成感を得ます。支えてくれた人たちからの祝福、開会式の華やかさ、そういったことがたくさん起き、人生のなかでも経験したことのない日々を過ごします。

 そして本番になって初めて、世界から注目を集めること、日本全国からの期待、五輪がいかに特別な舞台であるかというプレッシャーを感じ、実力を発揮しきれないで終わってしまう選手が生まれるのです。

 しかし、一度五輪に出たことで、今度は「五輪で勝つ」ということが目標に変わります。普段の生活から「五輪で勝つ」ことを見据えて過ごし、トレーニングに挑む。4年間の過ごし方そのものが変わるのですから、1回目と2回目以降では何もかもが違ってくるのです。

 その意味で、今大会の日本勢は「2回目」以降の選手ぞろい。前述のメダル候補の多くが、ソチ・バンクーバーでの経験を持った上で、「メダル候補」の力を備えて今大会を迎えています。五輪という舞台の重さを知り、そこで勝つことに強い意欲がある。いわゆる「五輪の魔物」には足をすくわれない選手たちです。

 女子スキージャンプの高梨沙羅選手などは、ソチ大会では「1回目」の五輪に翻弄されるようなところがあった選手です。大会前の実績ではメダルを逃すような結果は想像もできませんでしたが、金はおろかメダルにも届きませんでした。逆に今大会はW杯の成績などを見ると、マーレン・ルンビ選手(ノルウェー)とカタリーナ・アルトハウス選手(ドイツ)の2強に押される格好となっており、金候補としては名前が挙がりにくくなっています。

 しかし、今大会は「どれだけ実績があっても、本番でその通りになるとは限らない」ことを知った上で挑む五輪です。現時点の実績に心乱されることなく、本番でどれだけの力を出せるかに集中して、実力を発揮してくれるでしょう。金候補と呼ばれ、自分自身にもそうした期待をかけた状態で勝つことは、とてつもなく難しいことです。女子スキージャンプでその難しさを知るのは高梨選手ひとり。「1回目」の経験を得た高梨選手は、前回よりも良い状態で本番を迎えられるのですから、結果にも期待ができそうです。