羽生選手の滑りが美しいのは、なぜ?

羽生選手の強みとは 写真/JMPA代表撮影(能登直)
羽生選手の強みとは 写真/JMPA代表撮影(能登直)

 羽生選手はエッジ系のジャンプを特に得意としており、最も得意とするのが浅田真央さんなども得意としたトリプルアクセルです。トリプルアクセルは羽生選手の大きな武器となっており、試合でもジャッジからの評価で「満点」をたびたび獲得しています。平昌五輪のショートプログラムでも、羽生選手のトリプルアクセルはジャッジからの「満点」評価を獲得しました。

 羽生選手はジャンプの出来栄えに影響する要素、「踏み切り動作の工夫」「高さ」「飛距離」「流れを途切れさせない」「着氷の工夫」などを高いレベルで満たすことで、「満点」評価を獲得しているのですが、それはとても慌ただしい作業です。

 踏み切り時にゆっくり準備をすることはせず、さまざまなステップやターンを踏みながら、直ちに「パッ」と羽生選手は跳びます。ゆーっくり準備して、思い切って氷を蹴るのではなく、ステップやターンの流れの中で「パッ」と跳ぶのです。それで十分な高さと飛距離を出す、まずそれがスゴイ。

 さらに着氷時にドスンと落ちるのではなく、着氷の勢いのままリンクを滑っていける流れのある降り方をし、さらに着氷後にすぐさま次のステップやターンを踏みます。これは軸が傾いたり、上がり過ぎたり、低過ぎたりすることなく、狙い通りの角度で跳ばなければできないことです。

 準備なく「パッ」と跳び、それで高さ・飛距離を出し、かつ狙いどおりの角度で跳び上がる。それを片足で踏み切るエッジ系のジャンプでも極めて高い精度でこなすことができる。ここに羽生選手の一番の強み、「氷にチカラを伝えることのうまさ」すなわちスケーティングスキルの高さがあります。

 ジャンプして空中回転するだけなら体操選手のほうが得意でしょうが、スケートでそれをやるときの最大のポイントは「いかに氷にチカラを伝えるか」です。それができなければ力任せの強引なジャンプになりますし、「パッ」と跳ぶことや、流れのある着氷はかないません。ゆーっくり準備をして、ドスンと落ちるジャンプになってしまいます。

 羽生選手は「氷を蹴ること」「氷にチカラを伝えること」が際立ってうまいから、片足踏み切りのジャンプでも高い正確性を発揮できるのです。そして、それはスケートの基本中の基本の技術であり、あらゆる場面で使うものです。

 氷にチカラを伝えることがうまければ、何度も蹴って勢いをつけなくても長い距離を高速で滑れます。氷にチカラを伝えることがうまければ、スピンの回転も速く、安定したものになります。氷にチカラを伝えることがうまければ、複雑なステップやターンも勢いを殺さずに連続して続けられます。

 要するに、羽生選手があらゆる要素で高い得点を得られるのは、基本中の基本の技術が高いからなのです。それは採点においても、ショートプログラム・フリー演技とも、スケーティング技術の巧みさを示す採点項目で羽生選手が全選手中最高の評価を得たことにも表れています。

 その強みがあってこその、右足への負担は少ないけれど基礎点ではやや劣るサルコウでも戦えるという判断。フリー演技で「満点」評価を得た4回転サルコウの得点13.50は、加点がない場合の4回転ルッツ13.60とほとんど同等の得点を得るものでした。

 そうした戦略を採ることができるのも、「氷にチカラを伝えるうまさ」があればこそ。その意味で羽生選手は、「ジャンパー」などの一面的な特徴で語られるのではなく、世界一の「スケーター」として評されるべき存在でしょう。

世界一のスケーター、羽生結弦選手。本当におめでとうございます 写真/JMPA代表撮影(能登直)
世界一のスケーター、羽生結弦選手。本当におめでとうございます 写真/JMPA代表撮影(能登直)

文/フモフモ編集長 写真/JMPA代表撮影

変更履歴:本文を一部修正しました。(2018年2月20日)