他者へのリスペクトを育ててあげる
ある外資系企業で、40代の事業部長と、その部下の50代くらいのベテランの技術者と三人で打ち合わせをしていた時のこと。事業部長が、その技術者の方にずっとタメ口で話していて驚きました。
上司部下の関係とはいえ、相手は年も上で、技術者としてはベテランです。一緒に仕事をしてくれている年上の人に対して、タメ口は適切な言葉遣いではないと感じました。その技術者の方も、心のどこかで「何だ、この若造」と思っている部分はあったはず。そうした不満はマイナスなことが起きたときに行動として表れます。
他者へのリスペクトを忘れて仕事をしていると、自分が困った時ほど損をしてしまうんですよね。これは上司部下の例ですが、新人の場合は、違う部署・業務の人への接し方で気を付けてほしいところです。
叱り方には三つの鉄則がある
ここまで、叱るべき状況や伝え方のポイントをお話ししてきましたが、即座に行動を止める緊急時以外での叱り方には、三つの鉄則があります。
(1)公開処刑はNG
(2)即時
(3)「もの」「こと」を主語にする
まず、他の人がいる前で叱るのは絶対にダメです。「メールで上司をCCに入れて報告する」という人もいますが、上司にミスを報告したいときは、メールは分けたほうがいいですね。公開処刑をしていると、上司から見たあなたの評価も下がってしまうので注意してください。
(2)「即時」とは、後からネチネチ言わないということ。嫌みっぽくなりますし、切迫感もなくなります。例えば、取引先との打ち合わせで注意したいことがあれば、打ち合わせの直後に「今の打ち合わせなんだけど、さっき話した情報だけだと○○さん少し悩んでいたよね。過去の成果物を事例として見せたらどう?」など、その場でアドバイスをします。嫌みがないですし、注意点も伝わりやすくなります。
(3)「『もの』『こと』を主語にする」というのは、例えば後輩が会食の場で気が回らず、空いたグラスやお皿を片付けていなかったとします。そんなとき、「(あなたが)グラスとお皿を片付けて!」ではなく「テーブルの上を片付けたほうが、場の雰囲気がよくなると思うよ」と言うのです。主語を「あなた」ではなく「片付けること」に変えて注意してあげてください。
期待を伝える叱り方をする
叱るときの言い方としては、「教える」ときと同様に、期待しているメッセージを込めると、なおいいでしょう。
「なんでミスしちゃったの?」と聞くのではなく、「このミス、いつもの○○さんらしくないね」と話し掛ければ、先輩が自分を見てくれていることが伝わります。ミスをした「あなた」を責めているのではなく、ミスをしたという「事象」に対して「あなたらしくない」と言っているので、「あなた」に対する期待も添えている言い方です。
先ほどの会食の例も同様です。「今日は部長、新入社員とたくさん話したいと思うから、食器を片付けながら近くで話を聞いてあげて。他の部署の仕事についても教えてくれるから、○○さんの視野も広がると思うよ」といった具合です。
新人を育てるとマネジメントスキルが身に付く
育成ができることは大きなスキルです。私はさまざまな企業で「働き方見直しプロジェクト」や「社内コミュニケーション活性化プロジェクト」などのアドバイザーを務めていますが、社員の育成で悩んでいる組織はたくさんあります。異なるバックグラウンドを持った人と信頼関係を築き、その人の成長を促すことができるのは、組織にとって大きな価値なんです。
新人をどう育てるかは、自分が気持ちよく働くことにも通じます。言い換えれば、新人の育成とは、みんなが心地よく働ける環境をデザインすること。今後はますます、年代や国籍、雇用形態が多様なチームが当たり前になっていきます。あなた自身が気持ちよく働くためにも、ぜひ育成というマネジメントスキルを身に付けてほしいですね。
聞き手・文/飯田樹 写真/PIXTA