対処法3.周囲の人をハラスメントから守る方法を知る

 ハラスメントは、自分が受けるだけではなく、周囲の誰かが受けていることを目撃することもあるでしょう。アンケートでも「男性上司が同僚の30代後半の独身女性に対して、彼がいないことをたびたびネタにします。私は既婚ですが、聞いていて気持ちのいいものではない。ただ、自分に対してではないので特段アクションをしていません」という声も。また一方で、「飲み会の席で、セクハラをしてくる人の隣になりそうなときは、理解のある同僚の男性が代わってくれる」など、第三者に助けてもらっている人もいます。

 周囲の人がセクハラに遭っているとき(または、遭いそうになっているとき)にその被害を防げるよう、また、コミュニティー全体でハラスメントをなくしていく、ハラスメントのない文化をつくっていくことを目指して、アメリカの大学や大学院でいま盛んに取り組まれているのが、「第三者介入トレーニング」です。

第三者が介入することで防ぐこともできます 画像はイメージ (C) PIXTA
第三者が介入することで防ぐこともできます 画像はイメージ (C) PIXTA

 このトレーニングでは、ハラスメントへの介入のタイミングやその方法についての選択肢が示されています。

 例えば、「上司から彼がいるかいないかでからかわれる」といったシチュエーションでセクハラに遭いそうになっている人に対して、介入のタイミングは、下記の二つです。

(1)現場で介入する
(2)事後に介入する(例:翌日オフィスで「大丈夫だった?」と声を掛けるなど)

 また、現場で介入する場合には、次のような選択肢があります。

(1)中断させる
(例:被害者に全く違う話題で話し掛けて会話を中断させる、「こっちに来て飲もうよ」と被害者を移動させる、被害者と加害者の間でお酒をこぼすなどして二人を引き離す)

(2)不適切な行為であることをダイレクトに言う
(例:「彼がいるいないで人をからかうことはよくないことだと思います」)

(3)個人の思いとして言う
(例:「私は既婚ですけど、話を聞いていると、自分のプライベートに土足で踏み込まれるような気がします」)

(4)ユーモアを交えて伝える
(例:(トーンを明るく)「またまたそうやって若い人にズケズケ聞いて! 今の時代、プライベートなことはその人が話してくれたら話す、そうでなければ聞かないという姿勢じゃないと嫌われちゃいますよ~」)

(5)誰かに任せる
(例:上司に対してしっかり意見できる人に、隣でこっそり「私は言いにくいのですが、今の会話は止めたほうがいいと思います。雰囲気も悪いし、一言言ってもらえませんか?」と頼む)

 ハーバード・ビジネス・スクールをはじめ、アメリカの大学や大学院では、この第三者介入トレーニングのような性暴力予防措置を取ることが法律で定められています。その発端は、2011年にキャンパス内でのレイプが発覚し、被害当事者が声を上げたこと。

 アメリカの教育機関では、こうしたトレーニングを採用することによって、学生たちが被害を防ぐための方法を身に付けているのだといいます。

 「日本においてはまだ、このようなトレーニングやシステムは広がりを見せていません。しかし、こうした対処法を知っておくだけでも、身近なハラスメントを防ぐ上で助けになる可能性があります。現在、『ちゃぶ台返しアクション』の活動の中で、企業や一般、大学向けのトレーニングを開発しており、これから展開予定です。少しでも多くの人が、身近なハラスメントへの理解や意識を高める機会をつくっていければと思っています」

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 ハラスメントは決して、被害者がただ傷つき、耐えなければならないものではありません。

 そして、周りの人が何もせずにただ見ているだけでは現状が変わらないのも事実。

 私たちには、ハラスメントのない環境を手にするためのアクションが求められているのです。

文/西門和美 写真/PIXTA

プロフィール
鎌田 華乃子
鎌田 華乃子(かまた・かのこ)
NPOコミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ) 理事・共同創設者。ちゃぶ台返し女子アクション 共同発起人。日本大学を卒業後、外資系商社、外資系環境コンサルティング会社を経て、2011年にハーバードケネディスクールに留学。NPOで市民活動などを学んだ後、帰国し、COJを立ち上げる。現在は、ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所で市民社会と社会運動を研究中。