お金をどう準備するか?

 では、おひとりさまの人生でかかるお金を、どのように準備していけばよいのでしょうか?

 Cさんの場合、老後の生活費として必要な約2000万円を貯めるとすると、今から毎月貯めるべき金額は、2000万円÷33年(60歳-27歳)÷12ヶ月=約5万円になります。

 給与収入だけでのやりくりを考えると、Cさんが現在貯めている毎月の貯蓄額3万円では足りません。しかし、もしCさんがまとまった退職金は受け取れるなら、老後のために今から貯蓄すべき金額は、もう少し低くなります。

 ちなみに日本ファイナンシャル・プランナーズ(FP)協会のホームページでは、ご自身のケースに合わせて、将来必要なお金や収支、貯蓄の状況をシミュレーションできる「ライフプラン診断」のコーナーがあります。Cさんに近い設定で試算をしてみると(20代、会社員<退職金あり>、配偶者子供なし、世帯年収<額面>500万円、生活費15万円、住居費10万円、貯蓄額0円で試算)、65歳までは年間収支を黒字で過ごすことができ、90歳までは充分な貯蓄を持って暮らせることがわかりました。

 ところで、Cさんはご実家への仕送りのために副業で月10万円を稼いでいます。もしご実家の借金完済後も副業を続けたら、副収入10万円をCさん自身の貯蓄に充てることができます。しかし、これを老後資金の原資とするのはおすすめしませんでした。

 フルタイムでの本業の後と休日を使っての副業は、体力的にも負担が大きいですから、長期間続けるわけにはいかないでしょう。睡眠不足で本業に支障をきたす恐れもありますし、なによりCさんが体を壊してしまっては、借金の返済どころかご自身の生活も立ち行かなくなってしまいます。ご両親に対しては、「●●円までは私が出す。」と初めに援助をする金額や期間を決めておき、ご自身の中でもあくまでも一時的な支出ととらえておくようにお話しました。

 一方で、この試練から、Cさんは現在の給与収入にプラス10万円を得る力があることが分かりました。その力は、今の会社で昇給を目指したり、より給与水準の高い企業に転職するなど、自身のために生かせると思います。Cさんの今後の「稼ぐ力」のアップにきっとつながるはずです。

 Cさんは、実家のお金のことと、自分の将来のお金のことの2つの大きな問題を抱えて、初めは混乱しているようでした。ですが、「今までの月3万円の貯蓄を自分のために続けていく、そして、実家が落ち着いたら、自分のために収入を上げられる。そうすれば、仮におひとりさまだったとしても大丈夫」という見通しがついたことで、気持ちがすっきりしたようでした。

 もし、Cさんが将来誰かと結婚することになっても、「おひとりさま」を覚悟して貯めたお金は決して無駄にはなりません。Cさんがご自身1人分の老後資金をすでに準備できる状態で結婚すれば、夫婦2人の老後資金を貯めていく際に、ゆとりがうまれます。

 「実家が落ち着いて、自分のためにもっと貯められるようになったらまた連絡します。」といって帰って行ったCさんに、暖かい春が訪れることを願ってやみません。

※文中の試算では、金利や将来の物価変動を加味していません。収入が増える以上に物価が上昇した場合、家計は圧迫されることになりますから、インフレに備えて資産運用なども検討しておきましょう

文/加藤梨里 写真/PIXTA