「哲学」ってむずかしいことだと思っていませんか? 「哲学」とは、「ものごとの正体を知ること」。哲学者の小川仁志さんが、身近なことを題材に分かりやすく哲学の視点から読み解きます。今回のテーマは、映画「美女と野獣」。ストーリーも良いけれど、音楽も本当に素敵です。

人を外見で判断してはいけない、と言うけれど

 アニメ作品として史上初のアカデミー賞作品賞にノミネートされた「美女と野獣」。この映画が日本で公開されたのは1992年のことです。そのころ私はバブルを謳歌する大学生。就職も内定して、合コンばかりしていました。そのたび話題になったのが、この「美女と野獣」です。

人は見た目じゃないんです
人は見た目じゃないんです

 ただ、どちらかというと、映画の文脈とは無関係に、決してイケメンとはいえないワイルドな男性と美女の組み合わせを形容する言葉として用いられていたように思います。そして幸か不幸か、周囲からは私もその部類に入れられていました。

 さて、「美女と野獣」という作品は、同名のフランスの民話がもとになっているのですが、映画では少し内容がアレンジされています。昔、森の奥の城に傲慢な王子が住んでいました。その王子の元を醜い老婆に扮した魔女が訪れます。そして一晩泊めてほしいと頼んだのですが、その醜さゆえに断ります。

 すると魔女は、人を外見だけで判断した王子を戒めるため、王子と彼の城全体に魔法をかけたのです。王子は醜い野獣の姿に変えられ、家来たちも家財道具に変えられてしまいます。この魔法は、野獣の姿になった王子を心から愛する女性が現れるまで消えないといいます。しかも、手渡された一輪のバラの花びらがすべて落ちるまでにというタイムリミット付きです。そこに主人公の美女、ベルが現れます。

 ベルは野獣に囚われた父親の身代わりとして城に住むことになったのですが、野獣の中に人間性を見出し、次第に彼の心を変えていきました。そしてついに恋に落ちるのです。ただ、ベルにはしつこく求婚を迫ってくる男がいました。その名はガストン。イケメンで人気者だけれども、こちらもかなり傲慢な性格です。

 ガストンは野獣を殺し、ベルを奪い返そうと城に攻め込みます。ところが、最後はやられてしまいます。戦いが終わって、ベルが傷ついた野獣に愛の言葉をささやいた瞬間、野獣の魔法が解け、元の王子の姿に戻ります。こうしてめでたく二人は結ばれたというのが話の流れです。

 ストーリーの概要を聞いていただいて分かるとおり、ここでの教訓は外見にとらわれてはいけないということです。もう少しいうと、固定観念にとらわれてはいけないということです。哲学にとっても固定観念は敵です。そのせいで物事の本質が見えなくなってしまうからです。