まずは行動しよう。希望はそこから見えてくる

 この映画が日本で公開されたのは1990年の3月。ちょうど私が高校を卒業して1年ほど経ったころです。私の高校も校則が厳しく、まさに拘束の中で青春の日々を送っていたのを覚えています。ですから、当時この映画を観たときは、他人事だとは思えませんでした。おそらくどんな学校に通っているにせよ、多かれ少なかれ日本の管理教育にはこれと似た要素があるはずです。

 なぜ自由な髪形にできないのか、なぜアルバイトをしてはいけないのか、なぜもっと自由に政治活動をしてはいけないのか。そう思っている中高生は多いのではないでしょうか。授業もそうです。教科書に書かれた決められた内容を、決められたとおりに覚えなければならない。自由な意見は間違いだとされることすらある。これが教育というものなら、そんな知識を使って生きる社会はいかにつまらないものなのかと思うに違いありません。

 現に私がそうでした。大学に入って何も学ばなくなってしまったのはそうした理由からです。学ぶなどというつまらないことは、もうこれ以上はしたくない。そう思ったからでした。もしキーティングのような先生に出会っていれば、おそらくもっと積極的に学ぶ大学生活を歩んでいたことでしょう。

 日本の大学生は勉強しないと言われます。それはこうした管理教育のせいなのです。残念ながら日本の教育は子どもたちに希望を与えることができていません。本来教育の目的は子どもたちに学ぶことの面白さを伝え、夢を持たせ、希望を抱かせることなのではないでしょうか? もしこの国が今停滞しているとすれば、それは若者が早くから希望を失ってしまっていることに起因しているように思えてなりません。なぜなら希望はすべての物事の推進力だからです。たとえば、ドイツの思想家 エルンスト・ブロッホは、『希望の原理』の中でこう書いています。

閉ざされた静的な存在概念から決別することによって初めて、希望の現実的な地平が浮かび上がってくる。世界はむしろ何ものかへの萌芽、何ものかへの傾向、何ものかの潜在に満ちみちており、このようにして志向された何ものかというのは、すなわちこの志向する者の実現のことである。

 つまり、行動しさえすれば、希望が見えてくるということです。そして希望を抱くことができれば、人は自分を変え、世の中を変える可能性が出てきます。今、日本の教育は改革期にあると言われます。2020年には大学入試も大きく変わると見込まれています。でも、私たちが本当に実現すべきなのは、若者に希望を持たせることなのです。

エルンスト・ブロッホ(1885-1977)。ドイツの哲学者。ユダヤ系であるため、戦前はアメリカなどに亡命を余儀なくされた。マルクス主義の立場から独自の思想を展開し、学生運動などに大きな影響を与えた。代表作に『ユートピアの精神』や『希望の原理』がある。

 またこれは、学校を卒業して、社会人として働く私たちにも当てはまることです。日々希望を持ち続けることが、世の中と自分自身を進歩させます。どうか皆さんも希望を持ち続けてください。私たちはどこまでも変わることができます。世の中だって変えることができるのです。Seize the day!

※「女子的あかるい哲学入門」は、今回でひとまず最終回となります。またお会いしましょう。

いまを生きる
<ストーリー>
全寮制の厳格な名門校に赴任してきた、熱血新米教師と生徒たちの心温まる交流を描いた青春ドラマ作品。ロビン・ウィリアムズ、ロバート・ショーン・レナードほか出演。第62回(1989年)アカデミー賞・脚本賞受賞作品。

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文/小川仁志