キャリアは「設計」すれば高められる

 そもそも、彼女が新卒で入社したのは、日本の中堅企業。ここで総務兼秘書をやった後、転職してIT企業の秘書をやり、英語力を身に付けて3社目は外資系メーカーの秘書になりました。2度の転職によって、彼女は「日本企業、IT企業、外資系グローバル企業の経験もある秘書のプロフェッショナル」という魅力的なキャリアの持ち主になったわけなのです。転職市場では、こうしたキャリアの人のほうが、「日本の大手メーカーの社長秘書経験12年」というキャリアの人よりも市場価値は高くなります。

 このように、今、どんな仕事をしているとしても、「キャリアを設計する」という思考を持つことで、キャリアは確実に高めていくことができます。ですので、諦めないでほしいですね。転職を躊躇(ちゅうちょ)している人の中には、「就職活動がダメだったから転職も厳しいのではないか」と思っている人がいますが、新卒のルールと転職のルールは全然違います。野球をやってダメだったから勉強もダメだと思っているような状態で、ゲームの構造自体が違いますから、そうした心配は無用です。何歳からでも「自分のキャリアは自分で設計していく」というマインドを持ってください。

「自立」は「希望」になる

 以前、少し年上の女性経営者の方から「専業主婦になった友人たちから時折、『夫と不仲になり離婚したいが、自分で稼いで子どもを養っていく経済力がないから離婚できない。この先も別れられないと思うと絶望的な気持ちになる。どうしたらいいか』といった深刻な相談を受ける。女性活躍、女性の社会進出という前にまずは、女性の経済的自立が大事だ」といった話を聞きました。

 この話を聞いた時、私は「これは仕事も同じではないか」と感じました。男女問わず「今の仕事が死ぬほどつまらない。今の会社にこの先何十年もいることを考えると絶望的な気分になる」と考えている人は少なくありません。なぜなら、「自分は、他では生きていけないのではないか」と思っているからです。では、そうした人に何が必要なのかというと、「自分は今の会社を辞めてもやっていける」という会社からの「自立」です

 「自立」は女性にとっても男性にとっても、「希望」となり得ます。やみくもに「転職」を勧めるわけではありませんが、「転職の思考法」を知ることで、「自分は今の会社を辞めてもやっていける」と自信が持てるようになったら、生き方にも「希望」が持てるようになるのではないかと思っています。

聞き手・文/井上佐保子 写真/小野さやか、PIXTA

この人に聞きました
北野唯我
北野唯我(きたのゆいが)さん
ワンキャリア最高戦略責任者。神戸大学経営学部卒業。博報堂、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画。サイト編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。テレビやラジオのほか、日本経済新聞やプレジデント、東洋経済などのビジネス誌を中心に「職業人生の設計」の専門家として活躍。著書「転職の思考法」(ダイヤモンド社)は10万部越えのヒット。