退職を決意した、ある出来事

 朝から晩まで働きづめで、友人ともほとんど会えず、付き合っている彼とのデートもままならない日々。それでも麻衣さんは3年半、必死に働いた。

 「一緒に働いていた同僚もすごくよかったし、扱っていた商品も職場も好きだったんです。でも、体調を崩しがちになり、気持ち的にも限界でした」

「仕事、好きなんだけどなぁ。疲れが取れない……」 写真はイメージ (C) PIXTA
「仕事、好きなんだけどなぁ。疲れが取れない……」 写真はイメージ (C) PIXTA

 繁忙期が訪れるたび、貧血による立ちくらみの症状に襲われ、生理不順となり、体調がすぐれない日々が続いたが、会社や同僚に迷惑を掛けるわけにはいかないと、休まず売り場に立っていた。そんな麻衣さんの心を打ち砕いたのは、新卒採用にまつわる、ある噂だった。

 「採用の方針が変わり、本社採用と店舗採用が別になるという噂でした。まさかと思ったのですが、本当にその通りになりました。私たちは新入社員全員が店舗配属となっていて、本社勤務を希望してもなかなかその通りにならないのに、あっけなく採用方針が変わって、入社時から本社勤務となる人がいるなんて、どうにも納得できませんでした」

 この一件から会社に対する不信感が生まれ、麻衣さんは退職を決意した。しかし、あまりに忙し過ぎて、転職活動をすることもままならない。実際に動いたのは、クリスマスシーズンを迎える前の9月。「またあの忙しいクリスマスが来ると思ったら、辞めるのは今だと思ったのです。同僚たちに迷惑を掛けずに辞めるなら今しかない、と」――。

 とにかく先に辞めることを決意した麻衣さんの生活は、この後一変する。

 続く。

文/井上佐保子 写真/PIXTA