派遣社員から正社員へ
派遣社員として出版社で働き始めた麻衣さん。仕事内容は、書籍の納品手配、在庫管理や、請求書の手配など書籍の流通全般に関わる業務だった。「楽しい、というわけではないですが、前職のときのように休みなく働くことによる疲れもなく、気持ちは楽でしたね。毎日淡々と目の前の仕事をこなしていました」
居心地のいい職場ではあったが、2年が過ぎ、派遣契約の期限が近づいてくると、このままでいいのだろうか、と転職を考えるようになった。
「そろそろ30歳という時期でしたので、30代もこのまま、契約期限を気にして働くのはどうなのか? と。また、2年もいると仕事にも慣れて、淡々とこなすだけの毎日に物足りなさを感じてきたということもあります。ただ、正社員になって、残業だらけで休みが取れないあの苦しい生活になるのは怖い。やってみたいけど、自信がない。そんなふうにいろいろ迷っていました」
麻衣さんは、「自分が急に辞めて職場の人に迷惑を掛けてしまうのも申し訳ない」という思いもあり、思い切って職場の上司であった部長や、他部署の仲良くなった人たちに転職についての相談を持ち掛けた。
すると、誰もが「20代と30代では求人案件が違うから、ぜひ正社員に挑戦したほうがいい」と応援してくれたのだ。中には「知り合いの会社で、人を探していたから」と紹介してくれる人もいた。
「迷惑を掛けてしまう、と思っていたのに、うれしかったですね」。結局、派遣元の会社から、現在働いている広告代理店の営業アシスタントの仕事を紹介されて、正社員として働くこととなった。
「営業職は無理だけど、営業アシスタントだったらできるかな、と思ったのです。入社してみたら、上司と共に、すぐに営業に出るようになりましたが(笑)」
そんな麻衣さんだが、今では、既存顧客への営業だけでなく、新規顧客の開拓も行っている。営業の仕事をしていると、さまざまな場面で、以前、販売職として店舗の売り場マネジャーを任されていたときの「仕事勘」「営業勘」がよみがえることがあるのだという。
「私、やっぱり直接人に会ってセールスするのが好きなんですよ」
振り返ると、「あのしんどかった3年半はムダじゃなかったんだな、と今になって思います」。忙しい時期に、残業や休日出勤になることはあるが、帰れるときはなるべく早く帰ろう、というムードのある職場なので、「今は、メリハリつけて働けている」。
「上司や同僚からは『タフだね』と言われますね。30代に入っても、やりがいを持って長く働けそうな仕事に就けてよかった。これから結婚・出産を迎えることになっても、今の仕事なら続けられるし、続けてみたいという思いが芽生えるようになりました」
文/井上佐保子 写真/PIXTA