マネジメントには信頼という「覚悟」が必要

 スリールを始めて4年目、会社に少しずつ人が増えてきました。部下を持ち、自分が引っ張っていかなくてはと意気込んでいたのですが、気づくと会社の雰囲気がどんよりしていて……。どうして皆のモチベーションが下がっているのか。それがわからず、フォローしようとすればするほど心が離れていってしまうような状況。完全に空回りしていました。

 そんな自分を一歩引いて見つめてみると、あることに気づきました。「相手のため」だと思って行っていたことは、すべて「自分のため」だったんです。メンバーに嫌われたくなかったし、良い上司だと思ってほしかった。それが行動に表れていたのでしょう。

 例えば、メンバーの手が回っていないと思ったら、仕事を引き受けるのがフォローだと思っていました。でも相手は、「こんなこともできないと思われているのか……」と落ち込んでいたんです。相手に関わらなければという想いが強すぎて、干渉しすぎていました。

 そこに気づいてから、接し方をがらっと変えました。手を出したいことがあってもぐっと堪える。信じて、任せておくんです。ただし、いつでも相談に来られるように、「いつも見守っているよ」ということはしっかりと伝えるようにしました。「すべて本人に任せる」というのは今でも難しいことですが、その方法に変えてしばらく経つと、皆の責任感が増しているのを感じたんです。マネジメントにはメンバーを信じる「覚悟」が必要なのだと学んだ出来事でした。

子どもが幸せなら、親は喜んでくれる

 進むことを躊躇しそうになったら、「『やらない』は一番の後退だ」と自分に言い聞かせています。一度きりの、自分だけの人生なので、自分が納得する道をいこうと。

 そう思えるようになったのは、父との関係が大きかったかもしれません。起業という自分のやりたい道へ進んでいましたが、「この道を父は認めてくれているのか」「心配をかけているのではないか」という想いがずっと胸の内にありました。父は4年前に亡くなったのですが、自宅療養中、思いきって「お父さんの望んだ道に進めなくてごめんね」とこれまでの気持ちを伝えたんです。黙って聞いていた父は、最後に「自分のやりたいことをやる、というのはすごいことだよ」と言ってくれました。

 そう語った時の父の穏やかな表情を見て、「親は、子どもが幸せならそれでいいんだ」と心から思うことができました。親の言う通りの人生を歩んでも、子どもが辛い顔をしていたら、親は悩むかもしれません。だからこそ、自分自身が納得できる人生を送りたい。そして、同じように悩んでいる人がいたら、少しでも助けになりたいんです。スリールのミッションは「自分らしいワーク&ライフの実現」です。決まった人生ではなく、「自分らしい」をキーワードに動く人が増えていったらいいなと思います。

子育ては上手くいかないもの

 200名の家庭・子どもを見てきて一番に感じたのは、「子育ては上手くいかないもの」でした。子どもという他人の人生なので当たり前なのですが、何か上手な方法があると思われている気がします。上手くいかないと分かった今では、誰かに頼っていいし、相談していいんだ、と思えるようになりました。

 私はまだ出産を経験していませんが、今すぐに子どもが生まれても、仕事をしながら育てていくことに不安はありません。自分1人の力ではなく、周りの人に助けてもらって、私も助け返して、たくさんの人の中で子どもが育っていく。そんな想いが詰まった仕組みをスリールで確立することができたので、私自身も安心なんです。

 この春から、千葉大学で非常勤講師を務め、大学の中でワーク&ライフ・インターンを行えることになりました。さらに多くの学生に、キャリアについて考えてもらう機会がいただけて本当にうれしいです。こうしたステージに立てるのも、自分の実現したいことを諦めずに発信し、応援してくれる人がいたからこそ。前がはっきり見えなくても、一歩踏み出してみると、周りが応援してくれて道は拓けるものですね。

文/藪内久美子 写真/洞澤佐智子 構成/大吉紗央里

堀江敦子(ほりえ・あつこ)

スリール株式会社 代表取締役。中学時代から200名以上のベビーシッターを経験し、仕事と子育ての現実に触れる。IT企業でビジネスの根幹を学び、25歳で学生のキャリア教育と子育てサポートを行うスリールを立ち上げた。内閣府、厚生労働省、文京区の行政委員を兼任しており、2016年4月からは千葉大学の非常勤講師も務めている。

この連載は、毎週公開しています。下記の記事一覧ページに新しい記事がアップされますので、ぜひ、ブックマークして、お楽しみください!
記事一覧ページはこちら ⇒ 「わたしとシゴト。」