科学衛星「あらせ」の開発メンバーとして、総勢100人が関わるプロジェクトの調整役を務めた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小川恵美子さん。配属当初、衛星開発の知識はゼロだったそうですが、どのようにしてこの一大プロジェクトを取りまとめたのでしょうか。


夫から借りた腕時計が仕事の必需品

 「今何時?」と聞かれると、「JST(日本標準時)とUTC(世界標準時)、どっち?」と聞き返してしまいます。JAXAでは世界中にアンテナを設置していて、世界標準時に合わせて運用計画を立てることが多いんです。今は、二つの時間の中で過ごしている感じですね。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)ジオスペース探査衛星 プロジェクトチーム 小川恵美子さん ※許可を得て撮影しています

 世界標準時は、日本時間マイナス9時間です。腕時計を二つ持っているのは、一つがこの世界標準時と日本時間の両方が分かるものだから。私が携わった衛星「あらせ」の運用は世界標準時に合わせて行っているので、仕事の必需品でした。

 もう一つの腕時計は、夫から借りている機械式のものです。ロケットや衛星に積み込む燃料は火気厳禁で、万が一燃料漏れが起こったときにちょっとでも火花がぱちっと出たら爆発を起こしてしまうんです。そのため、衛星に燃料を積んだあとは、火花が散る可能性のあるものは一切近くに持ち込むことができません。電池もダメなので、打ち上げ前の射場作業では機械式の時計がどうしても必要でした。

日本時間と世界標準時が分かるもの(右)。夫に借りた機械式時計(左)。「男物なので、あまりかわいくはないですけど」(小川さん)

 衛星って、一つの塊かと思いきや、「あらせ」は上下で二つに分かれているんですよ。下半分は衛星そのものが生きていくのに必要な燃料やバッテリーなどを積んだ部分で、上半分はさまざまな観測機能を持っています。

 これらがさらにいくつもの機器に分かれていて、それぞれに研究者がついて開発を担当しています。研究者ごとに協働しているメーカーさんも異なるので、プロジェクト全体を見渡すと、衛星「あらせ」の開発や運用に携わっているメンバーは100人ほど。その進行状況を取りまとめるのが私の役割でした。