オーダー通りのものを作ることが正解ではない

 スペシャルティ・ケーキは、お客様に喜んでもらえるものを作るのが一番の目的です。それは必ずしも言われた通りのものを作るということではありません

 漠然としたイメージでの依頼や「お任せで」という場合は、私の過去の作品の画像をお見せしたり、差し上げる方の情報を伺ったりしながら、こちらから一歩踏み込んで「こういう感じはどうですか」と提案します。反対に、明確な希望をお持ちの方の中には入れたい要素が多過ぎるケースもあって、そういうときには引き算も大事だということをちゃんとお伝えしています。

 あまりごちゃごちゃし過ぎてもテーマ性がなくなってしまい、いいものにはなりません。せっかく出してくれたアイデアを否定しないよう伝えるのは難しいですが、そこがデザイナーとしての力量だと思っています。

 「10を1に減らしてください」ではなく、「本当に必要なものだけを残して作ったほうが、インパクトがありますよ」「これをメインに絞ったほうがすてきですし、ストーリーが伝わりますよ」といったことをお話しすると、理解してくださることが多いです。

植物が大好きな新郎と、テキスタイル系の仕事をする新婦のために鈴木さんが作ったウエディングケーキ 写真/Alisa Suzuki Cakes
植物が大好きな新郎と、テキスタイル系の仕事をする新婦のために鈴木さんが作ったウエディングケーキ 写真/Alisa Suzuki Cakes
「海賊の宝箱」をテーマに作ったという誕生日ケーキ 写真/Alisa Suzuki Cakes
「海賊の宝箱」をテーマに作ったという誕生日ケーキ 写真/Alisa Suzuki Cakes

 相手の要望を引き出しつつ提案するということでは、アメリカの会社での経験が生きています。ボスがもともとファッションデザイナーだったので、お客様のエピソードを聞き出して、それにぴったりのものを作ることが上手でした。話しているうちに相手の人柄をつかみ、どんなものが似合って、どんなものを喜ぶかを理解する。それをいかに自分のアートとして提案するかということを学びました。

 最終的なデザインが決まってからは、スケッチを横に置いて一気にケーキを作り上げます。時間がかかるのはデザインを練っているとき。これだというものがすぐに浮かぶこともあれば、何かがちょっと足りないなと悩むこともあります。とくに複数を同時に進めているときは、常に頭の中であれこれ考えている状態が続きます。

デコレーションに使うプロ仕様の回転台は製菓学校卒業と同時に購入。中央の突起はケーキを固定するために特注でつけてもらった。メジャー類はケーキの大きさを決めたり、イベント会場などでケーキを置くスペースの寸法を確かめたりするのに欠かせない
デコレーションに使うプロ仕様の回転台は製菓学校卒業と同時に購入。中央の突起はケーキを固定するために特注でつけてもらった。メジャー類はケーキの大きさを決めたり、イベント会場などでケーキを置くスペースの寸法を確かめたりするのに欠かせない