初の製品開発でモノづくりの面白さを実感

 翌年には、「みんなで燃え上がりながらいいものを作りたい」という思いを込め、仕事のテーマもお菓子作りに例えて「焼く」のステージに移行。初めて開発にも関わりました。通気性のいいマスクを作ることになったのですが、素材の組み合わせによって息のしやすさは違うし、プリーツの形によって快適性も変わる。初めてモノづくりに携わって面白さを知り、今度は自分のアイデアを製品開発につなげたいと考えるようになりました。

 製品開発には、周りを納得させるだけの情報や分析が必要です。そこで、「冷静さをもって製品化を目指そう」という思いを込めて、3年目のテーマは、お菓子作りの最後のステップに例え「冷やし固める」に決めました。市場のトレンドを研究したり、素材の見直しを重ね、コットン素材で花柄のついた女性目線の可愛いマスクを提案。結局、その年に流行したSARSの影響で製品化が流れ、悔しい思いをしましたが、製品化の了承にまでこぎつけたことは自信につながりました。

営業経験ゼロ ハンデがあっても食らいつく

 マーケティング部に異動したのは2009年。それまで「モノづくり=技術」と思っていたけれど、市場のニーズを読み取り、コンセプトを決めて開発・販売戦略まで携わるマーケティングの仕事を見て、「こういうモノづくりのカタチもあるんだ、やってみたい!」と胸がときめいたんです。3Mには社内公募の制度があり、募集している職種があれば面接を受けて異動できます。ちょうどマーケティング部の募集があったため、手を挙げました

 マーケティングは販売と密接に関わる部門。営業経験のない私にとって大きなハンデでした。商談でどんなデータが必要なのか分からない。店頭での売れ方も予想がつかない。

 でも、恥ずかしがっていては前に進めません。営業の人に必死で食らいつき、「いいものを作って売りたいという思いがあるけれど、そのために必要な情報が分からない」と素直に伝えました。営業の先輩に相談して、商談にも同行させてもらいました。販売してくれる店側が何を望んでいるのか、商品をアピールする材料としてどんなデータが有効なのか、必要なポイントを学んでいったんです。

鵜飼さんが開発に関わった風呂用スポンジ。もともとスポンジに穴が開いて紐を通す商品だったが、「紐が乾きづらく不衛生に感じる」という声を受け、紐なしでかけられるようにし、スポンジの形状も変えてリニューアルした
鵜飼さんが開発に関わった風呂用スポンジ。もともとスポンジに穴が開いて紐を通す商品だったが、「紐が乾きづらく不衛生に感じる」という声を受け、紐なしでかけられるようにし、スポンジの形状も変えてリニューアルした