好きなだけでは仕事にできない

 実際に現場で働く先生たちを見て、「好きでなければできないけれど、“好きなだけ”では仕事にできないんだな」と思い知らされました

 たとえば、子ども同士がケンカをして、どちらかが相手の子を叩いてしまったとします。このとき、その場で大人が介入して、すぐに謝らせては子どもたちの学びにならないんです。叩かれた痛さ、悲しさ、叩いてしまった罪悪感、一緒に遊べないつまらなさなんかを子どもたち自身が体験することで、人との関わり方や自分の想いの伝え方等を自然と学んでいく。その場しのぎでなく、子どもたちの先まで考えて接する先生たちの偉大さを目の当たりにしました。

ずっと憧れていた仕事に就いた雨宮さん。理想と、仕事としての現実は違いました。それでも夢は変わらなかったそう

 実習では責任の重さを実感したものの、保育士になるという決意は揺らぎませんでした。短大卒業後は横浜市の民間保育園に正職員として就職。ところが、その園は立ち上げから間もなかったため、平均終業時刻も遅くハードでした。当時は特に疑問を感じることもなく働いていたのですが、その後、家庭の事情などもあり、時間的に融通のきく公立保育園の非常勤に転職しました。こちらでは補助的な立場とはいえ、担任としてクラスも受け持ち、1日8時間の週5日というペースになり、心身ともに少しゆとりを持つことができました。

休み時間に簿記を勉強

 でも、いざ時間に余裕ができてみると、なんだかうずうずしてきたんです。「私、こんなにのんびりしていていいのかな」と思い始め、週末は乳児園でアルバイトをしたり、保育園の昼休みや空き時間に勉強して、簿記の資格をとったりしました。ほかの先生には「雨宮さんが休み時間に何か勉強してるわよ」と、びっくりされました。簿記を選んだのは単純に叔父に『簿記はいいぞ』と勧められたから(笑)。その時はまさか起業するとは思っていませんでしたが、後で起業したときに役に立ちました。

 その後、起業までに4つの園を経験しました。それぞれ環境や軸に据えている考え方が違うので、とても勉強になりました。そしていろいろな保育園で働くうちに、「それぞれの園の良いとこ取り」をした自分の保育をしてみたいという思いがわき上がってきました

 たとえば、ある保育園には 「理想の保育」の実現を目指しているピシッとした緊張感があり、ある保育園はベテランのおばあちゃん先生が多かったため、大らかな雰囲気が特徴でした。子どもたちのやりたい遊びを優先してあげて、楽しもうという雰囲気でしたね。

 どちらの園にもそれぞれの良さがあり、現場の仕事は充実していましたが、同時に「保育の限界」を感じることが増えてきました。ただでさえ保育士の1日は業務に追われているのですが、大人の都合で制限された環境のなかでは「子どもたちの気持ち」や「子どもたちの遊び」を第一優先にできないこともある。多忙な毎日に疲弊し、心身のバランスを崩し、保育士を辞めていく仲間たちの姿も目の当たりにしました。