比較するとさらに格差を感じる?
この世界の事象から見えてくるのは、豊かさや幸福度を比較すると不満や格差を生じやすいのではないかということです。
幸福度についての経済学の研究を見てみると、非常に興味深い仮説が掲げられています。
■「全ての人の所得を上昇させると、誰の幸福度も上昇しない?」
■「自分の所得が上昇しても、他人の所得の方が更に上昇していると、それによって自分の幸福度は低下してしまう?」
“Another Avenue for Anatomy of Income Comparisons: Evidence from Hypothetical Choice Experiments"
Yamada, K and M. Sato/Journal of Economic Behavior and Organization 89, 35-57, 2013
つまり、他者の所得と比較することで生じる感情が、自分の幸福度を引き下げているかもしれないのです。以下の論文では、このようなことを示しています。
この研究では、日本人をターゲットにして、他人の所得と自分の所得の上がり方について被験者に質問を行っています。これによると、他者の平均所得水準が上昇するのに伴って生じる感情の影響によって、自分の所得が上昇していても、その幸福度のプラスの効果が約46%打ち消されたそうです。
確かに、例えば、自分の所得が10%上昇しても、職場の仲間のほとんどが20%も上昇していたら複雑な気持ちになりませんか? 比較から生まれるネガティブな感情パワーで世界が動いているぐらいですから、むやみに、自分の年収やお金の事情について人に話したり、相手の年収を調べたりするのは避けたほうがよさそうです。
一方で、この論文を書かれた山田克宣博士は、このような報告もしています。
旧ソ連のような経済成長著しい新興国では、ライバルや他者の給料が自分よりも上がっているのをみると、もうすぐ自分も上がるかも! と考えて幸福度が増すとか…。ミクロな私たちの生活に当てはめて考えてみると、ベンチャー企業や起業したばかりで勢いのある組織や仲間うちでお金の話をすると、比較することで向上心を沸かせるドライバーになるという見方もできます。
ただ冷静に考えると、自分のお金事情にについて話したり、相手のお金事情について調べたりすると、思いがけず、自分自身の幸福度まで下がってしまう可能性も。幸せに暮らすためには、むやみに「話す&知るべからず」です。
文/崔真淑 写真/PIXTA
記事一覧ページはこちら ⇒ 【崔真淑の「女子とキャリアの経済学」】