定年までに、できる限りの貯蓄を!

 現実は寛子さんが思っている以上に深刻でした。

 寛子さんは実家暮らしですし、年金があれば安定的に暮らしていけるだろうと考えていました。そんな彼女に伝えなくてはいけないのが、年金の現実です。

 寛子さんは「私も老後には老人ホームに入るかもしれないけれど、できたら高級老人ホームに入りたいなあ」と言いますが、高級老人ホームはだいたい月額30万円ほど。

 みなさん、実際、寛子さんは年金をいくらくらいもらえると思いますか?

 寛子さんのこれまでの納付期間や諸条件から試算してみたところ、年金の手取り額は月13万円程度でした。寛子さんは老後資金のための保険や貯蓄を全くやっていなかったので、定年した後の収入は、年金以外は退職金のみです。高級老人ホームは夢のまた夢、でした。

 寛子さんはそれを聞いて顔面蒼白に。今の暮らしを維持するのは到底できっこありません。それどころか、家庭の事情が変わるなど環境が大きく変化した場合、生活そのものが立ち行かなくなる危険性もはらんでいます。

 ここはもう待ったなし。定年までのあと7年で、できる限りの貯蓄をするしかありません。セオリーでは、給与から天引きできる財形貯蓄が最もよいのですが、ここにきて「財形貯蓄は絶対嫌だ。何かあったときに引き出せないから」と寛子さんが抵抗。仕方がないので、まずは銀行の自動積立定期預金を月2万円で始めてもらうことにしました。

 ただ、これも目を離すと「今月お金が足りないから」と引き出してしまうのです。最終的には、やはり財形貯蓄で給料から天引きするようにして、月5万円まで金額を上げました。(月々のお金が足りないからといって、キャッシングは絶対しないようにと、念のためくぎを刺しました)

 ためるのは嫌いですが、お金そのものは大好きな寛子さん。こつこつ貯金するより、投資のほうが向いているようだったので、貯蓄と並行してつみたてNISAを始めることにしました。積極的に増やしていきたいとのことで、インデックス投信ではなく、アクティブ投信を月々3万円購入しました。
*インデックス投信…日経平均株価など、代表的な株価指数に連動して運用する投資信託で、市場の平均的な運用成績を目指す *アクティブ投信…代表的な株価指数を上回る運用を目指す投資信託で、市場の平均以上の運用成績を目指す

 それでも、お金を増やしたい! と切に願う寛子さん。その悩みを聞きつつ、ふと彼女のブランドバッグが目に入りました。

 「寛子さん、今まで買ってきたブランド品ってどうしてるんですか?」
 「私、捨てるのは嫌だから、家には山のようにたまっているのよ」
 「え! それ、資産ですよ!」
 「!?」

 彼女は、自分の買ったブランド品を手放すことは全く考えていなかったのですが、それは、その品がお金にかえられると認識していなかったから。資産だと分かった途端に、「断捨離だ!」と言って、持ち物の棚卸しを始めました。

 すると、出るわ出るわ……。服やバッグはもちろん、スーツケースに時計、高級家具や食器類などブランド品も多岐にわたります。限定グッズも大好きだったので、プレミアが付いているものも数多くありました。

 こうした資産たちをまとめて、大黒屋にGO! 一度で売れる量では全くないので少しずつ処分していますが、既に数百万円の現金に変わったそう。最近では大黒屋に物を売りに行くのが趣味だとか(笑)。

 寛子さんは高級車も持っていましたが、それも手放しました。車の値段だけでなく、車輌保険など維持費もとても高いもの。今の状況だと高級車は身の丈に合わなさそうです。

 バブルの再来を願うより、バブルの残り香を売り払って一から出直すことが、寛子さんの幸せな老後につながると私は考えています。定年後の生活に少しでも余裕を持つには、寛子さんのこの数年の努力がものをいうでしょう。

 どうか財形貯蓄を引き出さないように……と祈りつつ。

今回の学び

今回の学び「現実を知ろう」

聞き手・文/相馬留美 イラスト/北村みなみ