一人ひとりが変わる努力を

 そして私の経験上、人の生死に関わるレベルではない限り、カバーする手段が何もないということはないと感じています。

 私が徳島県海部(かいふ)郡美波(みなみ)町で設立した会社「株式会社たからのやま」で、地方自治体と共同で事業に取り組む機会が増えました。

 自治体の事業で成功している事例を見ると、「まずはやってみたらいいんじゃない?」という言葉が出てくる組織であるという点が共通しています。既成概念にとらわれて、新しい方法は試さない、新しい人材を起用しないのでは、何も新しいものは生まれてこないのではないでしょうか。

 そもそも人間というものは、チャレンジより現状維持を選びたい生き物なのではないかと私は思います。大昔、海の向こうに本当に陸地があるかどうかも分からないのに、死の危険を冒し、新大陸を目指して船を漕ぎ出す人のほうが少数派。あるいは目の前の草に死に至らしめるような毒が含まれているかもしれないのに、少々ひもじいからといってわざわざ食べてみる人も少数派。チャレンジより現状維持を採る人が大半です。

 会社の存続でも同じことが言えると思います。みんなが現状維持をしていこうとしているところで、誰か一人が少しでも何かを変えようとしたら、大変な努力や教育が必要になってきます。それでも会社の存続のためには、そこに集まる一人ひとりが変わる努力をして、みんなで会社を変えていかなければ、いつか行き詰まり、立ち行かなくなってしまうのです。

 これまでIT業界で仕事をしてきて、そういった状況を嫌というほど見てきました。

 日本でITイベントが盛んになり始めた1990年代、業界の勢力図はほとんど3年周期くらいで入れ替わっていました。業界をリードするトップクラスの企業が、第一線から退いたり、倒産したり、吸収合併で消えていったりした例を数多く知っています。それなりに勢いのあった企業が、わずか半年や1年でなくなってしまうことなど日常茶飯事でした。

 企業が何の変化もせず、現状維持でずっと存続していくことなどあり得ないのです。ましてや、永遠に業界トップに君臨する企業というのもありません。